IT業界で成果を出す品質管理の手法6選|体制づくりも合わせて解説
2025年9月13日

目次
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- 1. IT業界における品質管理とは
- 2.製造業の品質管理との違い
- (1)品質の対象が「モノ」か「動作」か
- (2)不具合の影響と修正のアプローチが異なる
- (3)変更に対する考え方が異なる
- 3.IT業界における品質管理の体制づくり8つのステップ
- (1)品質管理の目的と評価基準を明確にする
- (2)プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
- (3)QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
- (4)開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
- (5)品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
- (6)テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
- (7)品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
- (8)継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
- 4.IT業界における品質管理の6つの手法とフレームワーク
- (1)V字モデル
- (2)PDCAサイクル
- (3)アジャイル開発
- (4)静的解析
- (5)動的解析
- (6)CI/CDパイプライン
- 5.IT業界で失敗しない品質管理の進め方8選
- (1)品質管理の目的と評価基準を明確にする
- (2)プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
- (3)QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
- (4)開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
- (5)品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
- (6)テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
- (7)品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
- (8)継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
- 6.まとめ
「IT業界で品質管理をどう進めればよいのだろう?」
「専門チームがいない中で、どうやって品質を守ればいいのか?」
結論から言うと、IT業界では開発の流れに合わせた品質管理の仕組みを、事前に組み込むことが重要です。
なぜなら、後から修正するよりも、最初から不具合を防ぐほうがコストも手間もかからず、安定した成果を出せるからです。
この記事では、IT業界でよく使われる6つの品質管理手法と、失敗を防ぐための体制づくりのポイントをわかりやすく解説します。
品質を高めたい企業の担当者やチームでの取り組みを改善したい方に向けて、すぐに実践できるヒントをご紹介しています。
読み終える頃には、自社に合った品質管理の進め方が見えてくるはずです。
1. IT業界における品質管理とは

IT業界における品質管理とは、ソフトウェアやシステムが正しく動き、使いやすく、安全に使えるようにするための仕組みを整えることです。
製品をつくるときには、見た目や大きさなど目に見える部分を確認できますが、ソフトウェアは見た目では良し悪しがわかりません。
だからこそ、プログラムが正しく動くか、バグがないか、動きが遅くないか、そして使う人にとって分かりやすいかどうかなど、いろいろな面から確かめる必要があります。
また、IT業界では開発の途中で仕様が変わることも多く、それに合わせて柔軟に対応しつつ、品質も保たなければなりません。
このように、IT業界の品質管理では、見えない部分の不具合や使いにくさを防ぎ、安心して使えるサービスを提供するための管理活動をいいます。
2.製造業の品質管理との違い
IT業界と製造業の品質管理の違いは、大きく分けて3つあります。
- 品質の対象が「モノ」か「動作」か
- 不具合の影響と修正のアプローチが異なる
- 変更に対する考え方が異なる
業界ごとの特性を踏まえた品質管理を行うことで、ムダを減らし、安定した成果につながります。
順番に見ていきましょう。
(1)品質の対象が「モノ」か「動作」か
製造業とIT業界の品質管理では、そもそも対象としているものが大きく異なります。
製造業は「目に見えるモノ」を、IT業界は「目に見えない動作」を対象としています。
以下のように、両者の違いをまとめました。
| 項目 | 製造業の品質管理 | IT業界の品質管理 |
| 品質の対象 | 製品そのもの(モノ) | ソフトウェアの動作や使い勝手 |
| 目に見えるかどうか | 目に見える | 目に見えない |
| チェックする内容(例) | ・形や寸法の正確さ ・表面のキズ ・色のむら | ・正しく動くか |
| 問題が起きたときの影響 | 見た目の不良や組立不良として発見しやすい | 利用中に不具合が発生しやすく、見つけにくい |
上記のように、製造業では見た目や形のある製品を基準にしますが、IT業界ではプログラムの内部的な動きや使いやすさを重視します。
つまり、「モノ」の品質を保つのが製造業の目的であるのに対し、IT業界では「動作」の正しさや体験を安定させることが品質管理の中心になります。
(2)不具合の影響と修正のアプローチが異なる
製造業とIT業界では、不具合が発生したときの影響と対応の仕方が大きく異なります。
不具合の影響と修正のアプローチの違いは以下のとおりです。
| 項目 | 製造業の不具合対応 | IT業界の不具合対応 |
| 不具合が見つかるタイミング | 多くは出荷前の検査や工程内チェックで発見される | 多くはリリース後やユーザー使用中に発覚することが多い |
| 修正の方法 | 部品の交換・組み直しなど、現場内で修正できる | 原因を特定してプログラムを修正し、アップデート配信する |
| ユーザーへの影響 | 出荷前に対応できるため、ユーザーに影響が出にくい | 問題が発生したままユーザーに影響を与える可能性が高い |
| 対応の手間やスピード | 作業者や設備によって即時対応が可能 | 調査・修正・検証・配布までに時間やコストがかかる |
| リスクの大きさ | 一部の不良品にとどまることが多く、局所的 | 複数の利用者に影響する可能性があり、広範囲に波及する |
このように、製造業では不具合が製品として完成する前に見つかりやすく、対処もしやすい特徴があります。
一方で、IT業界ではリリース後に問題が表面化することが多く、ユーザーが影響を受ける前提での対応力とスピード感が求められます。
(3)変更に対する考え方が異なる
作業中の変更に対する考え方や対応の仕方にも、両者には大きな違いがあります。
| 項目 | 製造業の考え方 | IT業界の考え方 |
| 基本的な姿勢 | 変更はできるだけ避ける | 変更は前提として受け入れる |
| 主な理由 | 設備・図面・部品など、多くの工程に影響が出るため | ユーザーや市場の変化に柔軟に対応する必要があるため |
| 発生時の影響 | 時間・費用・人手が大きくかかり、現場の混乱を招く | 体制によっては対応可能だが、品質や納期に影響する場合もある |
| 開発の進め方 | 最初に計画を細かく決め、固定された仕様で進行 | 仕様変更を想定し、短いサイクルで調整しながら進行 |
| 組織の文化 | 計画重視・工程の安定を優先 | 柔軟性とスピードを重視し、改善を繰り返す文化 |
ご覧の通り、製造業では「変更はできるだけ防ぐもの」として扱われるのに対し、IT業界では「変更はあって当然のもの」として受け入れられています。
それぞれの業界の特性に合わせた考え方が、品質管理にも大きく影響しています。
3.IT業界における品質管理の体制づくり8つのステップ
品質管理の体制づくりにおける基本ステップは、以下の8つに分けられます。
- 品質管理の目的と評価基準を明確にする
- プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
- QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
- 開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
- 品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
- テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
- 品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
- 継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
このステップを知らずに進めてしまうと、役割の曖昧さや連携ミスによって品質トラブルを招いてしまうかもしれません。
プロジェクトで安定した品質を保ちたい方は、ぜひ参考にしてください。
(1)品質管理の目的と評価基準を明確にする
まずは、チームごとに「何のために品質を管理するのか」という目的を明確にすることが大切です。
その上で、その目的が達成できているかを評価するための評価基準を決める必要があります。
たとえばチームの目的が、「ユーザーが安心して使えるシステムをつくる」「サービス停止を防ぎたい」「開発のムダを減らす」といった場合、それぞれの評価基準は以下のようになります。
■目的と評価基準の対応表
| 品質管理の目的 | 主な評価基準 |
| ユーザーにとって安心できるシステムをつくる | ・ユーザーからの不具合報告数 ・苦情件数 |
| サービスの停止を未然に防ぐ | ・重大バグの発生件数 |
| 開発のやり直しや手戻りを減らす | ・再修正率 |
つまり、品質管理の体制を始める際には、何を目指すのか、何をもって達成とするのかを明らかにしておくことが重要です。
(2)プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
品質管理の体制は、すべての現場で同じように組めばよいというわけではありません。
プロジェクトの大きさや内容に応じて、最適な設計が必要です。
■小規模プロジェクトにおけるポイント
- 開発者と品質管理の担当者が同一でも可能
- 工程ごとのチェックリストを事前に用意
- 手戻りを防ぐために少人数でも明確なルールを設定
■中〜大規模プロジェクトにおけるポイント
- 品質管理の専任担当者やチームが必要
- テスト計画・バグ管理・レビューなどを役割分担
- 開発と品質管理を分けて動かすことで効率と安定性を確保
このように、プロジェクトの規模に合った体制を整えることで、現場の混乱を防ぎつつ、安定した品質を確保することができるようになります。
(3)QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
品質管理の体制を整えるためには、誰が、何をするのかをはっきりさせることが重要です。
とくに、QA担当者とテスターの役割や求められるスキルは明確に区別しておく必要があります。
| 項目 | QA担当者 | テスター |
| 主な役割 | 品質全体の計画と管理 | テスト項目に沿って動作や不具合を確認 |
| 視点 | プロジェクト全体を見渡す | ユーザーの操作や仕様通りに動くかを確認 |
| 作業内容 | テスト計画の作成、分析、改善提案など | テスト実行、バグ報告、再確認など |
| 必要なスキル | 計画力、分析力、改善提案の力、チームを巻き込む調整力 | 仕様理解力、観察力と注意力、簡潔で正確な報告スキル |
このように、QA担当者とテスターは目的も求められる力も少しずつ異なります。
役割分担を明確にし、それぞれが力を発揮できる体制を整えることが、品質管理の効果を左右します。
(4)開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
品質管理の体制をうまく機能させるには、開発チームと品質管理チームの連携が欠かせません。
そのためには、情報の伝え方や作業の分担方法をルール化しておくことが重要です。
ルールが必要な理由は以下のとおりです。
- 情報共有が曖昧だと、バグの放置や再発につながる
- 開発中の変更が伝わらないと、テスト内容にズレが出る
- 役割の境目が不明確だと、対応漏れや手戻りが起きやすくなる
また、 以下のようなルールを事前に決めておくとよいでしょう。
| 項目 | 決めておきたいルール内容 |
| バグの報告 | 誰が・いつ・どのフォーマットで報告するか |
| 仕様変更の通知方法 | どの時点で・どのチームに・どう伝えるか |
| テスト進捗の共有 | 定例の共有タイミング・資料の形式・確認者の明確化 |
| 不具合原因のすり合わせ | 開発とQAが一緒に対応する手順や必要時の会議開催ルール |
| ツールや記録の使い方 | バグ管理ツールやテスト結果の記録方法、コメント記入のルールなど |
なお、細かい部分ほど見落とされやすいため、最初の段階でしっかりと話し合っておくことがポイントです。
(5)品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
品質を保つためには、すべての開発工程に品質管理の視点を組み込んだワークフローを整えることが欠かせません。
なぜなら、どの工程でもミスや抜け漏れが起きる可能性があり、後の工程になるほど修正にかかる手間も大きくなるからです。
たとえば、要件定義の時点で曖昧な仕様があれば、設計や実装に影響し、最終的にユーザーにとって使いにくいシステムになる恐れがあります。
そのため、開発の流れに合わせて、それぞれの工程で必要な品質管理の取り組みを明確にしておくことが大切です。
以下、工程ごとの目的と具体的な活動内容をまとめました。ぜひ、参考にしてみてください。
| 工程 | 品質管理の目的 | 主な取り組み例 |
| 要件定義 | ヌケ・モレの防止、曖昧さの排除 | ・要件レビュー ・関係者との認識合わせ |
| 基本設計・詳細設計 | ユーザビリティ・再現性の確保 | ・仕様レビュー ・UI/UXの確認 |
| 実装(コーディング) | コード品質の確保、バグの予防 | ・コードレビュー |
| テスト(単体〜結合) | 動作の正しさ・安定性の検証 | ・テスト計画の策定 |
| リリース前 | 品質の最終確認、問題の洗い出し | ・受け入れテスト |
(6)テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
テストや品質保証の取り組みを効果的に行うためには、それらを専門に担う体制をあらかじめ設計しておくことが大切です。
なぜなら、プロジェクトの規模や内容によって、求められるテストの種類や深さが異なり、場面に応じて柔軟に対応する必要があるからです。
たとえば、小規模開発と大規模な開発では、テスト体制は以下のように異なります。
■小規模開発
- 設計者や開発者がテストも兼任する
■大規模開発
- テスト計画とテスト実施の担当を分けて管理する
- 役割分担によって効率的かつ確実な品質確認ができる
また、品質保証の体制には、テストだけでなく、工程全体のルールや手順が守られているかを確認する役割も含まれます。
ですので、各チームとの連携や報告体制も事前に整えておくことが欠かせません。
品質に関わる活動を円滑に進めるには、目的に応じて役割を分担し、全体を見渡せる体制を設計する必要があります。
(7)品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
情報をしっかり共有し、すぐに改善へとつなげられる仕組みが、品質を守るためには欠かせません。
とくにIT業界では、開発スピードが速く、問題が発生するタイミングもさまざまなため、品質に関する情報が一部の人にしか届かないと、対応が遅れたり、同じ不具合を繰り返したりする恐れがあります。
たとえば、不具合の内容や発生原因、影響範囲などをすぐに共有する仕組みを整えれば、開発チーム・テストチームのどちらも早く対応できます。
共有すべき内容は以下のようなものがあると望ましいでしょう。
| 内容 | 目的・効果 | 共有方法の例 |
| 不具合の内容 | 問題を正しく理解し、的確な対応を行う | バグ管理ツールに記録・通知 |
| 発生原因の共有 | 根本原因を把握し、再発防止につなげる | 定例ミーティング・振り返り会で共有 |
| 影響範囲の明示 | 他への波及を防ぐ、優先順位を判断するため | チャットやWikiで関係チームに即時連絡 |
| テスト結果の可視化 | テストの進捗や抜け漏れを全員で把握できる | ダッシュボード、スプレッドシート等で管理 |
| ユーザーからの声(苦情・要望など) | 改善点や不満点を明確にし、製品の品質向上につなげる | サポート窓口との連携、定期レポート化 |
このように整理することで、関係者全体に必要な情報が伝わりやすくなり、早期対応と品質改善が実現しやすくなります。
(8)継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
継続的に品質を向上させるためには、評価のための指標を決め、それに基づいて定期的な見直しを行う仕組みを整えましょう。
主な評価指標と確認内容には、以下のようなものがあります。
| 指標の例 | 確認する内容 |
| バグ件数の推移 | 前回よりどれだけ減ったか、どの工程で発生したか |
| テスト進捗 | 計画通りに進んでいるか、どの工程で遅れがあるか |
| ユーザー満足度 | 不満点や改善要望がどう変化しているか |
| サポート問い合わせ件数 | 問題の根本原因と傾向がないか |
また、単に数値を見るだけでなく、その結果をもとに開発チームや品質管理チームで意見を出し合い、改善点を話し合う場を定期的に持つことが重要です。
4.IT業界における品質管理の6つの手法とフレームワーク
IT業界で活用されている品質管理の代表的な手法とフレームワークは、以下の6つです。
- V字モデル
- PDCAサイクル
- アジャイル開発
- 静的解析
- 動的解析
- CI/CDパイプライン
それぞれの手法がどんな課題に効果があるのかを、順番に解説していきます。
(1)V字モデル

V字モデルは、開発とテストの工程を対になる形で進める品質管理の手法です。
開発の各段階に対応するテスト工程を事前に設計しておくことで、品質の確認を計画的に行える点が大きな特徴です。
このモデルは、左側に要件定義・基本設計・詳細設計などの「開発工程」、右側に受け入れテスト・結合テスト・単体テストなどの「確認工程」が並び、全体の流れがV字に見えることから名づけられました。
たとえば、基本設計が終われば、その内容を検証するための結合テストを準備します。
このように、上流工程で定めた内容に基づいて、下流工程で確実にテストが行える仕組みとなっています。
V字モデルを活用すれば、後から慌てて不具合を修正することを防ぎ、事前に品質を高めながら開発を進めることが可能です。
そのため、計画性が求められる大規模プロジェクトなどで、特に有効な手法とされています。
(2)PDCAサイクル
PDCAサイクルは、品質を継続的に改善していくための基本的な考え方で、IT業界でも広く使われています。
「計画(Plan)→実行(Do)→確認(Check)→改善(Action)」の4つの流れをくり返すことで、問題の早期発見と改善を行っていくものです。
PDCAサイクルの具体的な流れと内容は、以下のようになります。
| ステップ | 内容 | 具体例 |
| 計画(Plan) | 対策を立てる | 「バグの原因分析」と「対策案の作成」 例:レビュー工程の見直し、テストケースの追加 |
| 実行(Do) | 計画した対策を実行する | 実際に新しいレビュー手順を導入し、開発プロセスで試す |
| 確認(Check) | 効果を確認する | バグ件数やテスト結果を集計し、改善効果を確認 |
| 改善(Action) | 結果をふまえてさらに改善点を検討する | レビュー内容をさらに細かくしたり、メンバーの教育を強化したりする |
上記のように、各ステップを順番に実施しながら繰り返していくことで、品質の維持と向上を両立させることもできるようになります。
(3)アジャイル開発

アジャイル開発とは、短い期間ごとに機能を少しずつ開発・公開しながら、改善を重ねていく手法です。
最初から完ぺきなシステムを目指すのではなく、必要な機能から順番に作っていき、ユーザーの声をすぐに反映することで、品質を高めていく考え方が基本です。
この手法では、開発とテストを同時に進めることが多く、関係者どうしの連携やこまめな情報共有がとても重要になります。
また、開発の流れが早いため、不具合の早期発見や修正のスピードも求められます。
そのため、品質を保つには、コードレビューや自動テストの活用、チーム内でのこまめな確認が欠かせません。
つまり、アジャイル開発は変化に強く、ユーザー目線の品質向上に向いています。
しかし、スピードと連携力が求められるため、チーム全体で目的や作業の流れを共有しながら進めることが重要です。
(4)静的解析
静的解析とは、プログラムを実行せずにソースコードを調べることで、不具合や問題点を事前に見つける手法です。
コードを書いた段階で自動的にチェックできるため、早い段階でミスを発見し、修正コストを抑えることができます。
たとえば、変数の使い方に誤りがないか、使われていない処理が残っていないか、セキュリティ上の危険な書き方が含まれていないかなどを機械的に検出できます。
静的分析で検出できるものには、以下のようなものがあります。
■静的解析でチェックできる代表例
- 変数の誤用:未使用・未定義の変数、間違った型の代入などを検出。
- 使われていない処理:実行されることのないコード(デッドコード)を発見。
- セキュリティ上の問題:脆弱性につながる危険なコードの書き方を自動で警告。
- コーディングルールの逸脱:命名規則や書き方の統一ルールが守られているか確認。
- 人間の目では気づきにくいミス:細かい構文エラーや論理の矛盾を早期に把握可能。
ただし、静的解析だけですべての不具合を防げるわけではありません。
実際の動作確認は別の工程で行う必要があります。そのため、ほかの手法と組み合わせて使うことが大切です。
(5)動的解析
動的解析とは、ソフトウェアを実際に動かしながら、その動作や状態を確認する品質管理の手法です。
見た目には問題がなさそうなプログラムでも、実際の動作中に思わぬバグが発生することがあるため、実行環境でのチェックは欠かせません。
動的解析で確認すべき項目には、以下のようなものがあります。
■動的解析で確認すべき主な項目
- 処理速度にムラがないか:動作が遅くなったり、止まったりしないか
- メモリの使用量に異常がないか:急激に増える・解放されないなど
- 操作に対して正しい反応をしているか:ボタンを押しても反応しない等がないか
- エラーが発生したときに、安全に処理できているか:アプリが落ちたりしないか
動的解析を行うことで、実際の利用シーンに近い状態で問題を発見できるため、ユーザーにとって安心できる品質のソフトウェアづくりにつながります。
(6)CI/CDパイプライン
CI/CDパイプラインとは、ソフトウェアの品質と開発スピードを両立させるための仕組みです。
CI (Continuous Integration)は継続的インテグレーション、CD (Continuous Delivery/Deployment)は継続的デリバリーまたは継続的デプロイメントを指します。
開発したコードを自動でテストし、本番環境に問題なく反映できるかを確認する流れを整えることで、人の手によるミスを減らし、より早く・安全にリリースを行えるようになります。
CI/CDパイプラインの具体的な仕組みや効果は、以下のとおりです。
| 機能・仕組み | 内容 | 効果・メリット |
| 自動テストの実行 | コードを修正するとすぐにテストが自動で実行される | 不具合を早期に発見し、開発者にすぐ通知できる |
| テスト通過後の自動デプロイ | テストに合格したプログラムのみを本番環境に反映 | 手動作業による設定ミスや漏れを防げる |
| 問題が起きた場合の即時アラート | エラーが検出されると開発者に自動で通知が届く | 不具合の拡大を防止し、対応までの時間を短縮 |
| 作業の標準化と一貫性の確保 | 人の手を介さず同じ手順で処理が進む | 品質のばらつきが減り、安定した運用が可能に |
こうした自動化は、とくに開発スピードが重視されるIT業界では非常に有効です。
5.IT業界で失敗しない品質管理の進め方8選
IT業界における品質管理の進め方は、大きく分けて以下の8つです。
- 品質管理の目的と評価基準を明確にする
- プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
- QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
- 開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
- 品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
- テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
- 品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
- 継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
品質管理の進め方を理解せずにプロジェクトを始めてしまうと、後戻りの多発や重大なバグの見落としなど、深刻なトラブルにつながる可能性があります。
ひとつずつ解説していきますので、ぜひご覧ください。
(1)品質管理の目的と評価基準を明確にする
曖昧なまま作業を進めてしまうと、関係者の間で認識のずれが生じやすく、品質に対する考え方や目指す水準もばらばらになってしまいます。
ですので、品質管理の目的や評価基準を明確にしておくことがとても重要です。
たとえば、「エラーを減らす」「ユーザーの満足度を上げる」といった目的を最初に定め、その達成度をはかるための評価基準として、「バグの件数」「動作スピード」「サポートへの問い合わせ数」などの数値を設定しておくと、共通の目標に向かって行動しやすくなります。
評価基準はプロジェクトの内容やサービスの特性に合わせて調整し、チーム全体で確認しておきましょう。
全員が同じ目的と判断軸を持つことで、品質管理の精度と効果が高まり、無駄のない改善活動にもつながっていきます。
(2)プロジェクト規模に応じた品質管理体制を設計する
プロジェクトの規模に合わせて、品質管理の体制を柔軟に設計することが大切です。
小規模な開発では、同じ担当者が設計・実装・テストまでを一貫して行う場合もあり、そのぶん手順を簡略化しながらも基本を押さえる工夫が求められます。
一方で、人数が多く、工程が複雑になる大規模プロジェクトでは、役割を明確に分担し、品質管理専任チームやレビュー体制を設けるなど、工程ごとにチェックと改善ができる仕組みが必要です。
また、関係者が多い分、情報共有の手順やルールも整えておく必要があります。
体制設計はプロジェクトの規模や性質に応じて最適化しましょう。
(3)QA担当者・テスターの役割と必要なスキルを定義する
QA担当者やテスターの役割と求められるスキルを明確にすることは、品質管理を成功させる上で欠かせないポイントです。
なぜなら、誰がどこまでを担うのかが曖昧なままだと、検証漏れや対応の遅れが起きやすくなるからです。
たとえば、QA担当者は品質保証の全体像を管理し、テスト計画の策定や進行状況の確認、不具合の分析などを行います。
一方で、テスターはその計画に基づき、実際のテストケースを作成し、動作確認やバグ報告を担います。
また、必要なスキルも明確にしておくことが重要です。
QA担当者には、論理的思考力や課題発見力、チーム間の調整力が求められます。
テスターには、システムへの理解力やテスト実行の正確さ、不具合報告の表現力などが必要です。
このように、役割とスキルを整理しておくことで、チーム全体の動きが円滑になり、品質を高める体制づくりに直結します。
(4)開発チームと品質管理チームの連携ルールを決める
品質トラブルを未然に防ぐためには、開発チームと品質管理チームの連携ルールを明確にしましょう。
なぜなら、役割や報告のタイミングが不明確なままでは、情報の行き違いや確認漏れが発生しやすくなるからです。
たとえば、要件変更があった際に、
- どのような手順で品質管理チームに共有するか
- テスト結果や不具合の報告はどのような形式でいつ行うのか
など、事前に合意しておくことが重要です。
また、緊急対応が必要な場合の判断基準や連絡方法も、事前に決めておくことで、混乱を最小限におさえることができるでしょう。
こうしたルールを定め、両チームが共通認識を持つことで、品質向上に向けた組織の協力体制が整っていきます。
(5)品質管理を工程ごとに組み込むワークフローを構築する
はじめから終わりまで一貫して品質を意識できる仕組みがあれば、不具合や手戻りの発生を大きく減らすことが可能です。
たとえば、要件定義の段階では「抜け漏れがないか」をチェックし、設計段階では「ルールに沿った構成になっているか」を確認します。
開発工程ではコードレビューや静的解析を行い、テスト工程では実際の動作確認を通じてミスを早期に発見します。
このように、各段階に合った確認項目や作業をあらかじめ明確にしておけば、品質管理が後回しにならず、自然な流れの中で行うこともできるでしょう。
結果として、トラブルを未然に防ぎながら、効率よく高品質なシステムをつくることが可能になります。
(6)テスト戦略と品質保証活動を担う体制を設計する
品質を高めるためには、どのような観点でテストを行い、誰がどのように品質保証を進めるかを事前に体制として決めておくことが大切です。
たとえば、単体テスト・結合テスト・総合テストなどの段階に応じて、目的や対象範囲を明文化し、担当する人やチームを定めます。
また、品質保証活動では、チェックリストや手順書を使って客観的な基準で評価できる仕組みを整えておくことが重要です。
このように体制を整えることで、品質のばらつきを防ぎ、再発防止や継続的な改善にもつなげられます。
(7)品質に関する情報共有とフィードバックの仕組みをつくる
品質に関する情報は、開発チーム全体で共有できる仕組みをつくることが大切です。
なぜなら、不具合や改善点の内容が共有されていないと、同じ失敗を繰り返したり、必要な対策が取れなかったりする恐れがあるからです。
また、テスト結果やユーザーからの声、レビューで指摘された内容などを定期的にフィードバックし合うことで、現場の気づきを品質改善につなげることができます。
■品質に関する情報共有とフィードバックの工夫
| 項目 | 内容 |
| 共有方法の例 | ・チャットツールでのルールを設定する(例:Slackで「#品質共有」チャンネルを設ける) ・情報の種類ごとにタグやスレッドで整理する |
| 定例の取り組み | ・週1回の品質レビュー会議で、現在の課題と改善策を確認する ・テスト結果やユーザーの声も資料として全体で共有する |
| フィードバックの姿勢 | ・単なる指摘ではなく、改善提案をセットで伝える |
| 期待される効果 | ・情報の見える化が進み、チーム全体の品質意識が高まる |
情報の共有とフィードバックの仕組みを整えることで、組織全体として品質意識を高められます。
(8)継続的な改善を促す評価指標とレビュー体制を導入する
継続的に品質を向上させていくためには、評価指標とレビュー体制を導入することが大切です。
改善の成果を数字で確認できるようにすれば、現状の課題を客観的に把握しやすくなり、対応すべき優先順位も見えてきます。
たとえば「バグの件数」「テストの進捗率」「ユーザー満足度」など、業務に直結する項目を指標として設定します。
それに加えて、定期的にレビュー会を開き、関係者が一緒に結果をふり返る場を設けると効果的です。
レビューでは、うまくいかなかった点を責めるのではなく、「次にどう活かすか」という前向きな視点を共有することが、改善文化の定着には重要です。
6.まとめ
今回は、IT業界における品質管理について、現場で活用されている6つの手法と、効果的な体制づくりのポイントをあわせて解説しました。
品質を高めるためには、アジャイル開発や静的解析、CI/CDなどの手法を目的に応じて使い分け、工程ごとに品質を確認できる仕組みを整えることが大切です。
また、プロジェクトの規模や内容に応じて、品質管理チームと開発チームが連携できる体制を設計し、情報共有や継続的な改善活動を仕組みに組み込むことも重要です。
本記事を参考に、自社の業務に合った品質管理の方法を見直し、成果を出せる体制づくりに役立ててください。
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ISMS・ISO27001
情報セキュリティマネジメントシステム
情報セキュリティマネジメントシステムは企業・組織の情報を守る規格です(ISMSとISO27001は同義)。
認証パートナーなら、情報セキュリティリスクへの対応計画、緊急時の対応計画踏まえPDCAサイクル回せるような仕組み作りを実現します。ISMS/ISO27001の認証ページへ -
ISO14001
環境マネジメントシステム
環境マネジメントシステムは環境を保護し、変化する環境状態に対応するための組織の枠組みを示します。
認証パートナーなら、課題になりがちな環境法令の対応についても一緒にサポート致します。ISO14001の認証ページへ -
ISO27017など各種対応規格
ISO27017やISO22000など各種規格もお得に 新規取得や運用・更新ができます。ご気軽にお見積りください。
ISO27017など各種対応規格ページへ -
複数規格の同時取得
ISOやプライバシーマークを同時に認証取得すると費用や工数を抑えることができます。安心してご相談ください
複数規格の同時取得ページへ
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