2024年6月24日
ISO9001の「7.1資源」は、組織が品質マネジメントシステムを適切に運用し、維持するために必要な経営資源を確保することを求める項目です。ISO9001における資源とは、簡単に言うと、ヒト、モノ、カネ、情報を指しています。
1.ISO9001『7.1資源』の位置付け
組織が目標を達成するためには、プロセスと資源が不可欠です。経営資源であるヒト、モノ、情報などは特に重要ですが、これらを確保するには、資金やスキルを持つ人員、時間などの資源全般(リソース)も欠かせません。
品質マネジメントシステムにおいては、「7.1 資源」という規格要件事項に基づき、組織が保有する経営資源を全体的に再評価し、必要な資源が適切に準備されているかどうかを確認します。
2.ISO9001 『7.1資源』の要求事項
⑴7.1.1 一般
①要求事項
組織は、品質マネジメントシステムの確立、実施、維持及び継続的改善に必要な資源を明確にし、提供しなければならない。
組織は、次の事項を考慮しなければならない。
a) 既存の内部資源の実現能力及び制約
b) 外部提供者から取得する必要があるもの引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
品質マネジメントシステムを運用するためには、まず必要な資源とその量を明確にする必要があります。
これには、外部から調達したり、アウトソースする必要がある原材料や資材も含まれます。それらの資源をどの程度どのように準備できるのか、また、資源の使用に際して制約がないかどうかを確認します。
⑵7.1.2 人々
①要求事項
組織は、品質マネジメントシステムの効果的な実施、並びにそのプロセスの運用及び管理のために必要な人々を明確にし、提供しなければならない。
引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
人的資源では、業務を効率的かつ適切に遂行するために、適切な職務能力を持つ人材が必要となります。
業務を担当する人材には、どのような知識や技術が必要で、どの程度の習熟度が求められるかなど、人材の職務能力の要件を明確にします。そして、その要件に合致する人材を教育するか、適任者を確保します。
さらに、「力量」については、ISOの要求事項「7.2力量」でも規定されているため、7.1.2と合わせて理解すると良いでしょう。マネジメントシステムでは、必要な力量を獲得するために教育・訓練計画を作成することが求められます。また、業務担当者の力量を適切に評価するためには、「職務能力評価基準」も必要となります。
⑶7.1.3 インフラストラクチャ
①要求事項
組織は、プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし、提供し、維持しなければならない。
注記 インフラストラクチャには、次の事項が含まれ得る。
a) 建物及び関連するユーティリティ
b) 設備。これにはハードウェア及びソフトウェアを含む。
c) 輸送のための資源
d) 情報通信技術引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
業務を適切に遂行し、管理するためには、適切なインフラストラクチャ(物的資源)が必要となります。
これには、既存の設備で対応可能か、新たな設備投資が必要か(規模や予算などを考慮)、建物や水道、電気、ガスなどの設備、輸送用の機器や車両、テレワークの場合はインターネット回線やWi-Fi、SIMなどの通信手段が含まれます。
さらに、業務の効率化やコスト削減を目指してIT化を進める場合や、組織やプロセス、企業文化の変革を目指してDXを推進する場合には、既存のシステムと新たな情報システムやソフトウェアとの連携により、製品やサービスの適合性に影響が出ないように注意が必要です。
⑷7.1.4 プロセスの運用に関する環境
①要求事項
組織は、プロセスの運用に必要な環境、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な環境を明確にし、提供し、維持しなければならない。
注記 適切な環境は、次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る。
a) 社会的要因(例えば、非差別的、平穏、非対立的)
b) 心理的要因(例えば、ストレス軽減、燃え尽き症候群防止、心のケア)
c) 物理的要因(例えば、気温、熱、湿度、光、気流、衛生状態、騒音)
これらの要因は、提供する製品及びサービスによって、大いに異なり得る。引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
ISO規格においては、プロセスの運用環境について特に明確な定義はありませんが、これは一般的に「作業環境」として解釈されます。組織は各プロセスが成果を出すために、物理的および心理的(社会的)要因を理解し、適切な作業環境を提供・維持する必要があります。
「作業環境」は通常、温度や照明、衛生状態などの物理的要素に焦点が当てられがちですが、組織は業務上のストレスや従業員のモチベーションなど、メンタルヘルスケアにも重点を置くべきです。ISO規格では、これらの要素も作業環境の一部として認識し、それらに対する組織の対応を求めています。
特に、怒り、不安、焦燥、抑うつなどの社会的要因は心理的ストレスの要因となりやすく、これらに対する個々のストレス反応は大きく異なるため、注意が必要です。
⑸7.1.5 監視及び測定のための資源
①要求事項
7.1.5.1 一般
要求事項に対する製品及びサービスの適合を検証するために監視又は測定を用いる場合、組織は、結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要な資源を明確にし、提供しなければならない。組織は、用意した資源が次の事項を満たすことを確実にしなければならない。
a) 実施する特定の種類の監視及び測定活動に対して適切である。
b) その目的に継続して合致することを確実にするために維持されている。組織は、監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として、適切な文書化した情報を保持しなければならない。
引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
7.1.5.2 校正トレーサビリティの確保
測定のトレーサビリティが要求事項となっている場合、又は組織がそれを測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合には、測定機器は、次の事項を満たさなければならない。a) 定められた間隔で又は使用前に、国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサブルである計量標準に 照らして校正若しくは検証、又はそれらの両方を行う。そのような標準が存在しない場合には、校正又は 検証に用いたよりどころを、文書化した情報として保持する。
b) それらの状態を明確にするために識別を行う。
c) 校正の状態及びそれ以降の測定結果が無効になってしまうような調整、損傷又は劣化から保護する。
測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合,組織は,それまでに測定した結果の妥当性を
損なうものであるか否かを明確にし、必要に応じて、適切な処置をとらなければならない。引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
「7.1.5. 監視及び測定のための資源」では、「7.1.5.1 一般」「7.1.5.2 校正トレーサビリティの確保」について要求しています。
「7.1.5.1 一般」では、製品やサービスの適合性を確認するためには、品質検査や測定結果が信頼性と適正性を持つことが必要であると述べられています。
そのためには、使用する測定機器を明確に定め、定期的に機器の校正や点検を行い、その記録を保存・管理することが求められます。
この流れを受けて、「7.1.5.2 測定のトレーサビリティ」では、製品やサービスの品質要求において、校正のトレーサビリティを確保する必要がある場合について述べられています。
具体的には、検査や測定結果が信頼性と適正性を持つように保証するために、使用される計測機器の校正結果を記録することが求められます。
校正記録には、校正のトレーサビリティも含まれる必要があります。そして、製品検査中に機器の精度に問題があることが判明した場合には、組織は直ちにその問題の程度や影響範囲などを調査し、必要な措置を講じなければならないとされています。
⑹7.1.6 組織の知識
①要求事項
組織は、プロセスの運用に必要な知識、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。
この知識を維持し、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。
変化するニーズ及び傾向に取り組む場合、組織は、現在の知識を考慮し、必要な追加の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。注記 1 組織の知識は、組織に固有な知識であり、それは一般的に経験によって得られる。
それは、組織の目標を達成するために使用し、共有する情報である。
注記 2 組織の知識は、次の事項に基づいたものであり得る。
a) 内部の知識源(例えば,知的財産,経験から得た知識,成功プロジェクト及び失敗から
学んだ教訓、文書化していない知識及び経験の取得及び共有、プロセス、製品及び
サービスにおける改善の結果)
b) 外部の知識源(例えば、標準、学界、会議、顧客又は外部の提供者からの知識収集)引用元:「ISO9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」
②解説
組織は、従業員一人ひとりの能力を向上させるために、個々の能力管理や教育・訓練計画に基づき、実務経験を積む機会を提供しています。具体的な業務においては、作業手順書があり、その手順を遵守することで一貫した品質の製品やサービスを提供することが可能となります。
しかし、多くの企業では、長年の業務経験から得られる技術や知識、コツ・ノウハウなどを次世代に引き継ぐことが難しい状況にあります。
よって、「7.1.6 組織の知識」では、組織が文書化されていない情報や、作業効率の改善や品質向上につながるノウハウを取得することを求めています。
手順書の更新や、更新情報の周知、教育訓練の実施方法などを決定し、関係者全員が必要に応じてこれらを活用できる体制を整備することが求められています。
これにより、組織内でまだ活用されていない知識やノウハウを組織全体で利用することを目指しています。
3.必要な資源の具体例を紹介
製造業や建設・建築業で必要とされる資源は以下の通りです。
【製造業】
- ヒト:従業員
- モノ:カム式旋盤、治工具、プレス機、クレーン、加工機、画像検査機など
- カネ:売上、利益、投資、維持費
- 情報:製品設計図、製造プロセスのマニュアル、品質管理データ、顧客情報、サプライヤー情報、在庫管理システムなど
【建設・建築業】
- ヒト:従業員
- モノ:バックホー、タイヤショベル、ブルドーザー、4tダンプ、4tユニック、軽トラ、営業車など
- カネ:売上、利益、投資、維持費
- 情報:建築設計図、施工計画書、現場管理データ、顧客情報、サプライヤー情報、プロジェクト管理システムなど
4.ISO9001「資源の妥当性」とは?
資源の妥当性とは、ISO9001の要求事項7.1項に基づき、人的、物的、金銭的な資源が適切に利用されているか、また不足がないかを評価し、その結果を反映させることを指します。
計画段階で設定した資源が実際に提供され、その運用結果が品質マネジメントシステムの改善に寄与したかどうかを評価します。
資源の提供はトップマネジメントの重要な責任であり、問題が発生した場合はその内容も評価に反映させる必要があります。
5.審査を受ける時の注意点
審査を受ける際には、ISO9001の運用に必要な仕組みやルールを整理しておく必要があります。
ISO9001の「7.1資源」では、以下の内容を明確にしておくことが求められます。
- 7.1.3:使用する設備や機器、そしてそれらのメンテナンス方法を整理し、明記します
- 7.1.4:作業環境の整備や、働きやすい職場作りのための施策と体制をまとめ、明記します
- 7.1.5:使用する測定機器の種類、それらの校正や点検の頻度、そして担当者を決定し、明記するだけではなく、実際に校正した記録なども審査員が確認しますので、保管しておく必要があります
- 7.1.6:全員が利用することで効果を発揮するノウハウ(過去の成果物やデータ、参考書籍など)の取得、更新、閲覧方法を決定し、明記します
これらを整理し、明確にすることで、ISO9001の運用をスムーズに進めることができます。
6.まとめ
ISO9001の「7.1資源」では、組織が効率的な運用を実現するために、以下の点が求められます。
- 設備や機器の管理方法の確立
- 働きやすい環境の構築
- 測定機器の適切な管理
- 全員が活用できるノウハウの整理と明確な記載
これらの要素は、ISO9001における資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」を効果的に活用するために重要です。
組織はこれらの資源を適切に管理し、運用することで、品質マネジメントシステムのパフォーマンスを向上させることが求められます。
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