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SaaS事業者が知っておくべきセキュリティチェックシート

2025年11月11日

SaaS事業者が知っておくべきセキュリティチェックシート

「セキュリティチェックシートって、どう対応すればいいの?毎回形式が違って困っている」

そんな悩みを抱えているSaaS事業者の方も多いのではないでしょうか。

近年、取引先からのセキュリティ要求はますます厳しくなり、チェックシートの提出は契約前提となるケースも増えています。

しかし、質問項目が数百に及ぶこともあり、対応に時間がかかるうえ、担当者によって回答内容がバラついてしまうなど、現場ではさまざまな課題が発生しています。

この記事では、セキュリティチェックシートに対応する上で必要な基本知識から、実務で使える対応フロー、失敗しないためのポイントまで、体系的に解説します。

最後までお読みいただくと、自社のセキュリティ体制を整理し、効率的かつ信頼性の高いチェックシートの対応ができるようになります。

顧客との信頼関係を築き、SaaS事業の競争力を高める第一歩を、ここから踏み出しましょう。

1. なぜ今、セキュリティチェックシートが“選ばれる基準”になっているのか

ビジネスにおいてセキュリティチェックシートが契約時の「選ばれる基準」となっているのは、SaaS(クラウドサービス)の利用が急速に拡大する一方で、情報漏洩などのセキュリティリスクも深刻化しているためです。

詳しく背景や原因を解説します。

(1)SaaS市場の拡大とセキュリティ意識の高まり

デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速により、企業は業務効率化を目的としてSaaS(Software as a Service)を積極的に導入しています。国内でも、バックオフィス管理、営業支援、コミュニケーションなど、あらゆる業務領域でクラウドサービスが普及しています。

この市場拡大に伴い、SaaS事業者が取り扱う機密情報や個人情報の量も急速に増加しています。利便性の高さが魅力のSaaSですが、情報漏洩やシステム障害などのセキュリティインシデントのリスクも比例して高まっており、企業は「安全性」を選定基準として重視するようになっています。

(2)顧客・取引先からの提出要求が増加する背景

SaaS導入時、ユーザー企業は自社の情報セキュリティポリシーに準拠しているかを確認する必要があります。その最も一般的な方法が、SaaS事業者に対して「セキュリティチェックシート」の提出を求めることです。

特に大手企業や官公庁との取引では、契約前の審査としてチェックシートの提出が必須となるケースも増加しています。これは、万が一委託先でセキュリティ事故が発生した場合、利用者側も社会的責任を問われる可能性があるためです。

(3)セキュリティチェックシートが信頼獲得の鍵になる理由

セキュリティチェックシートへの誠実かつ迅速な対応は、顧客や取引先に対して「自社のセキュリティ対策に自信がある」という強いメッセージを伝えることになります。これは単なる形式的な手続きではなく、事業者の信頼性や誠実さを示す重要な機会です。

以下の表に、チェックシート対応の効果とリスクをまとめます。

対応状況顧客からの評価契約への影響

正確かつ迅速な提出

「信頼できる」「安心して任せられる」契約獲得・長期的な関係構築に有利
提出拒否・曖昧な回答「リスクがある」「不誠実」

契約見送り・信用低下の可能性

2. セキュリティチェックシートとは?

(1)定義と目的

セキュリティチェックシートとは、情報システムやサービス、特にSaaS事業者が備えるべきセキュリティ要件をチェックリスト形式で整理した文書です。

これは、取引先や顧客が委託する業務において、提供者のセキュリティ対策が十分かどうかを確認するための質問票として活用されます。

主な目的は以下の通りです。

  • システムやサービスのセキュリティレベルを客観的に評価する。
  • 潜在的なリスクを可視化する。
  • 提供者と利用者が共通の基準でセキュリティについて議論できるようにする。
  • 情報の取り扱いやアクセス管理、インシデント対応などの対策状況を確認する。

【セキュリティチェックシートの構成要素(例)】

項目カテゴリ内容の概要
情報の取り扱い個人情報や機密情報の管理方法、暗号化の有無など
システム保護体制ファイアウォール、ウイルス対策、脆弱性管理などの技術的対策
アクセス管理ID・パスワードの管理、権限設定、ログ取得など
インシデント対応セキュリティ事故発生時の対応手順、報告体制、復旧計画など
運用・監査体制定期的なセキュリティ監査、教育・訓練の実施状況など

(2)SaaS事業者にとっての活用シーン

セキュリティチェックシートは、顧客からの提出要求に応えるだけでなく、SaaS事業者自身の競争力を高めるための多面的なツールとして活用できます。

新規契約の獲得、既存顧客との関係維持、営業活動での差別化、さらには社内の自己診断や外部パートナーとの連携にも役立ちます。

このシートを通じて、自社のセキュリティ対応を体系的かつ客観的に説明できることは、信頼性の向上と市場での優位性確保に直結します。

【活用シーン一覧表】

活用シーン説明期待される効果

新規契約時の信頼性アピール

顧客に対して、自社のセキュリティ体制を明確に提示することで安心感を与える契約獲得率の向上

既存顧客からの継続利用確認

定期的なセキュリティ状況の報告により、顧客との信頼関係を維持顧客離脱の防止、継続率の向上

提案・営業活動での差別化

他社との差別化要素として、セキュリティ対策の強みを具体的に示す

商談の優位性確保、競合との差別化

自己診断と改善自社のセキュリティ対策を定期的に見直し、改善点を把握する

セキュリティレベルの維持・向上

パートナーシップの構築外部ベンダーやパートナー企業のセキュリティ評価に活用し、安全な連携体制を構築

安全なサプライチェーンの形成、リスクの低減

このように、セキュリティチェックシートは単なる提出書類ではなく、SaaS事業者の信頼性・競争力・運用品質を支える戦略的なツールだと言えます。

3. 主要なガイドラインの概要

(1) IPA「安全なウェブサイトの作り方 改訂第7版」

IPA(情報処理推進機構)が策定した「安全なウェブサイトの作り方 改訂第7版」は、ウェブサービス提供者が安全なサイトを構築・運用するための実践的な指針です。

このガイドラインは、クラウドやSaaSの普及に伴う新たな脅威や、攻撃手法の高度化に対応するために改訂されており、セキュリティチェックシートの作成にも広く参照されています。

【改訂の背景と注目ポイント】

  • 最新の脅威動向(例:OWASP Top 10)を反映
  • クラウド・SaaS環境に対応した実践的な対策を提示
  • 脆弱性の原理と具体的な対策コード例を掲載
  • 攻撃手法の高度化に対応するための運用体制の強化

【SaaS事業者が押さえるべきチェック項目一覧】

カテゴリチェック項目例
脆弱性対策・SQLインジェクションやXSS(クロスサイトスクリプティング)への対策

・入力値の検証とサニタイズ処理

認証・認可・二要素認証の導入

・権限管理の適正化

・ログイン機能の安全性確保

通信の暗号化

・HTTPS通信の強制化

・SSL/TLS証明書の管理と更新

ログ・監視体制

・アクセスログの取得

・不正アクセス検知システムの導入

脆弱性対応プロセス

・脆弱性発見時の迅速な修正対応

・インシデント対応フローの整備

このガイドラインに基づいたチェック項目は、セキュリティチェックシートにおいて頻出する評価ポイントです。
SaaS事業者にとっては、これらの対策を実装・運用していることを明確に示すことで、顧客からの信頼獲得や契約獲得に直結します。

(2)経済産業省「クラウドサービスレベルのチェックリスト」

経済産業省が策定した「クラウドサービスレベルのチェックリスト」は、クラウドサービス利用者が安全性・可用性・信頼性を比較・評価するための指針です。

このチェックリストは、利用者視点でのセキュリティ要求を体系的に整理しており、SaaS事業者にとっては、自社の対応状況を明確に示すための重要な資料となります。

【利用者視点での主なセキュリティ要求】

カテゴリ内容の概要
データ保護・保管場所(国内/国外)

・暗号化方式

・バックアップ体制の有無

可用性・サービス稼働率

・障害発生時の復旧体制(RTO/RPO)

アクセス制御

・認証方式

・アクセス権限の管理

・ログ取得の有無

インシデント対応

・インシデント発生時の報告体制

・対応フローの整備

コンプライアンス

・適用法令、規格(例:ISO/IEC 27001)

・監査証跡の提示

【SaaS事業者が対応すべきポイント】

SaaS事業者は、上記の各項目に対して以下のような対応が求められます。

  • 具体的な対策の明示:例)データセンターの所在地、使用している暗号化アルゴリズム
  • 客観的な証拠の提示:例)取得済みの認証書、監査報告書、復旧手順書
  • 利用者の不安を払拭する説明力:単なる「対応済み」ではなく、どのように対応しているかを明確に示すことが重要

 4. SaaS事業者が直面する課題

(1)顧客からのセキュリティ要求の高まり

SaaSの普及に伴い、顧客、特に大企業や官公庁などは、自社の情報資産を守るため、以前よりも厳格なセキュリティ基準をサービス提供者に求めるようになっています。

その結果、SaaS事業者は「どこまで情報を開示すべきか」「どの程度まで対策を講じるべきか」といったジレンマに直面しています。

顧客は、サービスが自社のセキュリティポリシーに準拠しているか、第三者認証(例:ISMS、ISO/IEC 27001)を取得しているかなど、具体的かつ高度な対策を確認しようとします。

このような要求に対応するには、単なる技術的対策だけでなく、説明責任や透明性の確保が不可欠です。

【顧客のセキュリティ要求と事業者の対応課題】

顧客の要求内容SaaS事業者が直面する課題
セキュリティポリシーへの準拠確認自社の運用体制や方針をどこまで開示すべきか悩む
第三者認証(ISMSなど)の取得有無認証取得にかかるコスト・工数の負担が大きい
脆弱性対策やインシデント対応体制の明示実施していても、顧客が納得するレベルで説明・証明する必要がある
データ保管場所やアクセス制御の詳細確認技術的な仕組みを非専門の顧客にも分かりやすく伝える工夫が求められる
継続的なセキュリティレベルの維持・報告定期的な更新・報告体制の整備と、社内リソースの確保が必要

このような背景から、SaaS事業者は単に「安全です」と伝えるだけでは不十分であり、具体的な対策内容とその根拠を、顧客が納得できる形で提示する力が求められています。

それが、信頼獲得と競争力強化につながる重要なポイントです。

(2)セキュリティ対応業務の負担と認証取得のジレンマ

SaaS事業者にとって、顧客から求められるセキュリティチェックシートへの対応は、日常業務の中でも特に煩雑で負担の大きい作業です。

顧客ごとにフォーマットや質問内容が異なり、同じ情報を何度も記入する必要があるうえ、質問数が数百項目に及ぶケースも少なくありません。

さらに、チェックシート対応を効率化し、信頼性を高める手段として「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)」の取得が注目されていますが、取得には多くの時間・費用・人材が必要であり、特に中小企業やスタートアップにとっては大きなハードルとなります。

【チェックシート対応とISMS取得に関する課題一覧】

課題カテゴリ内容の詳細影響・懸念点
チェックシート対応の煩雑さ・顧客ごとに異なるフォーマット

・質問数が膨大(数百項目)

・手作業での対応が基本

・業務負荷の増加

・対応品質のばらつき

・信頼性の低下リスク

回答のばらつき・担当者によって記載内容が異なる可能性あり・顧客からの信頼喪失につながる可能性
管理の非効率性・過去の回答や資料が散逸し、再利用が困難・情報検索に時間がかかり、対応スピードが低下
ISMS取得の必要性と効果・チェックシート対応の標準化と信頼性向上に有効

・大企業との取引条件として求められることが多い

・外部へのセキュリティ体制の証明が可能

・競争力の強化につながる

ISMS取得のハードル・取得には時間・費用・人材が必要

・中小企業にとっては経営的負担が大きい

・導入の遅れが商機の損失につながる可能性あり

 

5. チェックシートをスムーズに進めるための実践ポイント

SaaS事業者が顧客からのセキュリティチェックシートに効率的かつ正確に対応するためには、事前準備と社内体制の整備が不可欠です。
質問項目の多さや形式の違いに振り回されるのではなく、標準化・分類・証跡管理などを通じて、対応の質とスピードを高めることが大切です。

(1)実務で使える対応フロー

以下のような対応フローを整備することで、チェックシート対応の属人化を防ぎ、顧客からの信頼を高めることができます。
また、主要なガイドライン(IPA、経産省など)を参考にしたテンプレート作成は、業務効率化にも直結します。

ステップ内容・目的補足・ツール例
セキュリティ体制の棚卸し自社のポリシー、規程、技術対策を整理し、現状を把握するISMS文書、社内規程、システム構成図など
チェック項目の分類顧客の質問を「技術対応」「運用ルール」「未対応領域」に分類し、対応方針を明確化Excel、Notionなどで分類管理
不足部分の補強・改善未対応領域に対して、ツール導入や規程整備などの対策を講じるログ管理ツール、アクセス制御設定、社内教育など
 回答内容の標準化・テンプレート化よくある質問をテンプレート化し、顧客ごとに流用可能な回答フォーマットを整備Googleスプレッドシート、Confluenceなどで一元管理
 証跡・エビデンスの準備画面キャプチャ、ログ、認証取得証明書など、回答の裏付けとなる資料を整理・保管認証書PDF、操作ログ、監査報告書など
 担当者の明確化と権限委譲質問内容に応じて、開発・法務・CSなどの専門部署と連携し、回答の質とスピードを向上回答責任者一覧、社内連絡フローの整備

(2)よくある失敗とその回避策

SaaS事業者がセキュリティチェックシートに対応する際、信頼性や効率性を損なう“ありがちな失敗”がいくつか存在します。
これらの失敗は、顧客との信頼関係を揺るがすだけでなく、再提出や対応遅延などの業務負荷にもつながります。

以下に、代表的な失敗例とその回避策を整理しました。

【失敗例と回避策一覧】

失敗例①

失敗例:未対応なのに曖昧に回答する

問題点・リスク:「対応予定です」などの曖昧な表現は、信頼失墜の原因になる

回避策・改善方法:現状を正直に伝え、「〇月までに実装予定」など具体的な改善計画を提示する

失敗例②

失敗例:担当者依存で回答がバラバラになる

問題点・リスク:回答内容にばらつきが出ると、顧客からの信頼を損なう可能性がある

回避策・改善方法:標準文書やテンプレートを整備し、回答の一貫性を確保する

失敗例③

失敗例:証跡不足で再提出を求められる

問題点・リスク:根拠資料がないと、顧客が納得せず、再提出や追加説明が必要になる

回避策・改善方法:初回回答時に画面キャプチャ、ログ、認証書などの証跡を添付する

失敗例④

失敗例:毎回ゼロから回答を作成して非効率になる

問題点・リスク:業務負荷が増加し、対応スピードが低下する

回避策・改善方法:過去の回答をテンプレート化・データベース化し、再利用できる仕組みを構築する

失敗例⑤

失敗例:ISMS取得を急ぎすぎて形骸化する

問題点・リスク:認証取得が目的化すると、実態が伴わず逆にリスクとなる

回避策・改善方法:ISMSは「手段」として捉え、まずは自社のセキュリティ体制を可視化し、段階的に改善することが重要

(3)自社のセキュリティレベルを可視化する方法

SaaS事業者が顧客やパートナーに対して信頼性を示すためには、自社のセキュリティ体制を“見える化”することが不可欠です。
セキュリティ対策は実施しているだけでは不十分であり、それを客観的に評価・証明し、外部に伝える手段が求められます。

以下のような方法を組み合わせることで、セキュリティレベルの可視化と継続的な改善が可能になります。

【セキュリティ可視化の手法一覧】

手法カテゴリ内容・概要目的・効果
第三者認証の取得ISMS(ISO/IEC 27001)、Pマークなどの外部認証を取得し、客観的な信頼性を確保顧客・取引先への信頼性向上、競争力の強化
内部監査の実施と公開定期的な社内監査を行い、その結果を記録・一部公開することで、運用状況を透明化継続的改善の促進、社内意識の向上
セキュリティ方針の公開自社Webサイトなどでセキュリティポリシーや体制を明示し、外部に対して姿勢を示す顧客の安心感の醸成、問い合わせ対応の効率化
自己診断の実施IPAや経済産業省のチェックリストを活用し、自社のセキュリティ状況をセルフチェック現状把握と改善点の発見、社内教育にも活用可能
診断ツールの活用SaaS型の脆弱性診断ツールを使い、Webアプリやネットワークのリスクを自動検出潜在的な脆弱性の早期発見、技術的対策の強化
外部専門家による診断ペネトレーションテストなど、第三者による深度ある診断を受けることで、網羅的なリスク評価が可能高度なリスクの洗い出し、対策の妥当性確認

これらの手法は単独でも有効ですが、組み合わせて活用することで、より信頼性の高いセキュリティ体制の構築と対外的なアピールが可能になります。

特に、第三者認証と診断結果の公開は、顧客からの評価や契約獲得に直結する重要な要素となります。

6.まとめ

セキュリティチェックシートは、単なる取引条件ではなく、SaaS事業者が顧客から信頼を得るための必須ツールになりつつあります。市場が拡大し競争が激化する中で、チェックシート対応を軽視すると、ビジネスチャンスを失う可能性もあります。

逆に、体系的な回答体制を整え、自社の強みを示せれば、大手企業や官公庁との取引にもつながる大きな武器になります。

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