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もう形骸化させない!ISO9001の品質マニュアルを「使える」マニュアルにする方法

2025年10月10日

もう形骸化させない!ISO9001の品質マニュアルを「使える」マニュアルにする方法

1.ISO9001の品質マニュアルとはQMS運用のための「取扱説明書」

ISO9001の品質マニュアルは、企業が品質マネジメントシステム(QMS)を適切に運用するための「取扱説明書」のようなものです。
このマニュアルには、品質方針や目標、組織構造、業務プロセス、品質管理の手順など、QMSを構築・運用するうえで必要な内容が文書化されています。

また、この品質マニュアルは、組織の従業員が業務を円滑に進めるための指針としても活用されます。そのため、実際の業務内容が適切に反映されていることや、従業員が理解しやすい言葉で記載されていることが重要です。

このような品質マニュアルを作成することで、従業員の教育や業務の標準化に役立つだけでなく、全従業員が共通の理解を持つことで、組織全体の品質向上を図ることができます。

2.ISO9001:2015では品質マニュアルは必須ではない

2015年版のISO9001では、品質マニュアルの作成は必須ではなくなりました。

しかし、品質マネジメントシステムの運用を支援するために必要な文書化した情報を維持することが要求されています(4.4.2項)。

「品質マニュアル」という言葉は削除されましたが、同等の文書を作成しなければなりません。

2008年度版

4.2.2 品質マニュアル

当社は、次の事項を含む「品質マニュアル」を作成し、維持する。

a)品質マネジメントシステムの適用範囲。

(除外するものがあれば、その詳細と正当とする理由を明確にする。)

b)品質マネジメントシステムについて確立された“文書化された手順”又はそれらを参照できるもの。

c)品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係を記述したもの。

引用元:JIS Q 9001:2008

2015年度版

4.4.1

組織は、この規格の要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善しなければならない。

組織は、品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらプロセスの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。

  1. a) これらプロセスに必要なインプット、及び、これらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
  2. b) これらプロセスの順序及び相互作用を明確にする。

4.4.2

当社の必要性に応じ、プロセスの運用を支援するために必要な文書は作成する。

また、必要な場合、計画のとおりに実施されたことがわかるように記録を残す。

引用元:JIS Q 9001:2015

⑴「品質マニュアル」が要求事項から削除された背景

ISO9001:2015の改訂は、QMSをより企業の実態に合わせることを目指しました。

従来の品質マニュアルは、多くの組織で審査のためだけの文書となり、実際の業務とはかけ離れ形骸化するケースがありました。

この問題を解決するため、「何を文書化するか」を厳格に定めるのではなく、「プロセスの運用を支援するために必要な文書化した情報」を、各組織の判断で決めるように変更されました。

これにより、組織は自社の規模や事業内容、製品・サービスに応じて、柔軟に文書化することが可能になりました。

⑵「プロセスの運用を支援するための文書化した情報」は必須

品質マニュアルが必須ではなくなったとはいえ、文書化された情報が不要になったわけではありません。ISO 9001:2015の4.4.2項は、品質マネジメントシステムを効果的に運用するために必要な文書(文書化した情報)の作成と維持を求めています。

これは、プロセスを正しく運用し、その結果を記録するために、何らかの形でルールや記録を残すことが重要であるということを示しています。

例えば、業務手順書、作業手順書、工程指示書などがこれに該当します。

これらの文書は、プロセスを誰が行っても同じ品質で実施できるようにするために作成します。

つまり、「品質マニュアル」という名の文書を作成することが目的ではなく、「プロセスを正確に回すための情報」を適切に文書化することを求めているのです。

3.ISO9001の品質マニュアルの作成方法

ISO9001の品質マニュアルは2015年度版で必須ではなくなりましたが、全体を把握しやすく審査の際にも説明しやすいため多くの企業で品質マニュアルが作成されています。

⑴適用範囲

適用範囲とは、ISO9001のQMSを、組織が「どのような業務や製品・サービスに対して、どの場所で、ISO9001の要求事項を適用していくか」を示す範囲を指します。

⑵適用規格及び引用規格

品質マニュアルにおいて、適用規格を「JIS Q 9001:2015」、引用規格を「JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム−基本及び用語」と記述します。

これは、この文書内で使用される用語や定義が、「JIS Q 9000:2015」で定められたものであるということを示します。規格改訂なども行われる可能性があるので、最新の情報をチェックしておきましょう。

⑶用語及び定義

品質マニュアル内で使用される専門的な用語や概念などを定義する項目です。

例えば、自社で独自の定義をしている用語(業界用語や社内用語)などがあてはまります。

定義事項説明
文書規格でいう「文書化した情報の維持」のことをいう。
記録規格でいう「文書化した情報の保持」のことをいう。

⑷組織の状況

この項目では組織の状況を、内部・外部に分け分析し文書化することが求められます。

4.1 組織及びその状況の理解

組織の内部・外部の課題を分析することが求められます。

外部の課題:組織の外にある、ビジネスに影響を与える要素です。

例:業界の動向、競合他社の動き、市場の変化、法規制の変更、経済状況など。

内部の課題:会社の内部にある、強みや弱みなどの要素です。

例:組織の文化、従業員の能力や知識、会社のインフラ、財務状況、既存の製品・サービスなど。

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

利害関係者とは組織の活動に影響を与える、または影響を受けるすべての個人やグループを指します。

例:従業員、顧客、投資家など

ニーズと期待とは、これらの利害関係者が組織に何を求めているかです。

例:

顧客
高品質な製品、迅速な納品、良いサービス。
従業員
働きやすい環境、公正な評価、キャリアアップの機会。

これらの利害関係者のニーズと期待を明確にしましょう。

4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定

QMSがどこからどこまで適用されるかを明確に定めるプロセスです。

適用される製品やサービス、物理的な場所、組織の部門などを具体的に記述します。

4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス

この項目ではプロセスアプローチと呼ばれる、組織の活動を、相互に関連し合うプロセスとして捉え、管理する手法という考え方が採用されています。

例えば、「営業」で得られた顧客要求事項が、「開発」にどのように共有され、その結果が「生産プロセス」にどのように共有されるかなど、プロセス同士の繋がりを明確にします。

⑸リーダーシップ

この項目ではQMSのトップマネジメントが、組織内でどのようにリーダーシップを発揮し働きかけるかを明確にします。

具体的には以下の項目を明確にします。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントがQMSに対して積極的に関与し、責任を果たすことが求められます。

5.2 方針

組織の品質方針をどのように確立し、運用するかを定めます。

5.3 組織の役割、責任及び権限

QMSを運用するための組織内の役割分担を明確にすることを求めています。

組織図などで明確にしましょう。

⑹計画

QMSを効果的に運用するために、計画を立てることが求められます。

リスクを管理と対策、目標達成、変化に柔軟に対応するために計画策定を行います。

6.1 リスク及び機会への取組み

ここでは、QMSが結果を達成できるよう、組織を取り巻く潜在的リスク(望ましくない影響)と機会(望ましい影響)を特定し、どう対応するかを計画します。

6.2 目標及びそれを達成するための計画策定

品質目標を定め、それを達成するための具体的な計画を策定します。

6.3 変更の計画

QMSに変更を加える必要がある場合、計画・体系的に実施することを定めます。

⑺支援

QMSを運用するにあたって必要な資源やリソースを明確にします。

7.1 資源

QMSの確立・運用に必要な人員、インフラ、環境、監視・測定機器、および知識を明確にし、提供することを定めます。

7.2 力量

サービス提供に必要な従業員の力量を明確にし、教育や訓練を通じて力量差を補うことを定めます。

7.3 認識

従業員が品質方針や目標、自身の貢献度について正しく理解していることを確実にします。

7.4 コミュニケーション

組織内外の重要なコミュニケーションについて、その内容、時期、方法、責任者を明確にすることを定めます。

7.5 文書化した情報

QMSに必要なすべての文書を特定し、その作成、管理、保護のためのルールを定めます。

⑻運用

顧客とのコミュニケーション、要求事項のレビュー、および変更管理のプロセスを明確にすることを定めます。

8.3 製品及びサービスの設計・開発

新製品やサービスを適切に設計・開発するための計画、インプット、アウトプット、管理のプロセスを明確にします。

8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理

外部の提供する製品やサービスが、当社の要求事項に適合していることを確実に管理することを定めます。

8.5 製造及びサービス提供

製品の製造やサービス提供が、管理された状態で行われるよう、識別、トレーサビリティ、顧客所有物の管理、保存、および変更管理の方法を定めます。

8.6 製品及びサービスのリリース

製品やサービスを顧客に提供する前に、すべての要求事項が満たされていることを確認するための手順と、その承認プロセスを明確にすることを定めます。

8.7 不適合なアウトプットの管理

要求事項に適合しない製品やサービスが誤って使用されたり、顧客に提供されたりしないよう、その識別、管理、および是正処置の方法を定めます。

⑼パフォーマンス評価

QMSが意図した通りに機能しているか、継続的に改善されているかを評価するための項目です。

9.1 監視、測定、分析及び評価

QMSのパフォーマンスと有効性を評価するため、何、いつ、どのような方法で監視・測定・分析を行うかを定め、顧客満足度や外部提供者のパフォーマンスも評価することを定めます。

9.2 内部監査

QMSが要求事項に適合し、有効に機能しているかを確認するため、監査の計画、実施、そして結果の報告方法を定めます。

9.3 マネジメントレビュー

経営層がQMSが適切で、有効に機能しているかを評価するため、定期的にレビュー会議を開催し、改善の機会を特定することを定めます。

⑽改善

QMSを継続的に改善することが求められます。

10.1 一般

顧客満足度を向上させるため、製品やサービスの改善、望ましくない影響の防止、QMSのパフォーマンス向上に取り組むことを定めます。

10.2 不適合及び是正処置

不適合が発生した場合、その原因を特定し、再発を防ぐための是正処置を計画・実行・記録することを定めます。

10.3 継続的改善

パフォーマンス評価やマネジメントレビューの結果を分析し、QMSの適切性や有効性を継続的に改善していくことを定めます。

4. ISO9001のマニュアル作成でよくある失敗事例と原因

ISO9001のマニュアル作成でよくある失敗事例は以下の3つです。

⑴失敗事例①:審査のためだけのマニュアル

ISO9001を「認証取得」が目的のプロジェクトとして進めてしまうと、失敗につながることがあります。
ISO9001の本来の目的は、継続的に品質を改善していくことです。

そのため、審査の直前になって慌てて準備するのではなく、マニュアルを定期的に見直し、実際の業務に合った内容に更新していくことが重要です。

⑵失敗事例②:現場の業務とかけ離れたマニュアル

マニュアルを作成する際、作成者が現場の作業内容を十分に理解せず、想像だけで文書化してしまうと失敗につながる可能性があります。

その結果、マニュアルの内容と実際の業務が一致せず、業務効率が低下するだけでなく、審査で不適合を指摘されるリスクも高まります。

⑶失敗事例③:専門用語だらけで誰も読まないマニュアル

規格の文章をそのまま引用したり、専門的で難しい言葉を多用したりすることで、誰も読まないマニュアルになってしまうことがあります。

マニュアルは、全社員が理解し、活用できるものでなければなりません。
そのためには、平易な言葉を使い、視覚的な図表を活用するなど、わかりやすさを追求することが大切です。

5.形骸化させない:業務で「使える」マニュアルにする3つのポイント

「使える」マニュアルを作成するためには、以下の3つの要素が重要となります。

⑴全従業員が理解できるように、専門用語を避けて平易な言葉で書くこと

マニュアルは、新入社員や他部署の人にも伝わる「共通言語」でなければなりません。

例えば以下のような例が挙げられます。

  • 箇条書きにする
  • 専門的な用語は避ける
  • マニュアルを読むユーザーの立場になって考える
  • 短い文章でまとめる
  • 図やフローチャートを作成する

これにより、組織全体の業務の質が向上しマニュアルが形骸化するリスクを軽減することができます。

⑵全体像を把握しやすくすること

業務プロセスを図や表を用いて業務の流れを示すことで、社員は全体像を把握しやすくなります。

これにより、各自の業務が全体の中でどのような位置づけにあるのかを理解しやすくなり、業務の意義や目的を明確にすることができます。

⑶マニュアルを定期的に見直すこと

マニュアルを定期的に見直し、現場の変化に合わせて更新するようにしましょう。

業務環境は常に変化しています。そのため、マニュアルもそれに合わせて柔軟に変化させる必要があります。

これにより、マニュアルは常に最新の状況を反映したものとなり、社員が適切な業務を行うための指針となります。

まとめ

ISO9001の品質マニュアルは、組織全体の品質を継続的に改善するための「取扱説明書」です。

2015年版の改訂で必須ではなくなりましたが、4.4.2項で品質マネジメントシステムの運用を支援するために必要な文書化した情報を維持することが要求されています。
つまり「品質マニュアル」という言葉は削除されましたが、同等の文書を作成しなければなりません。

マニュアルを形骸化させず、「使える」ものにするためには、以下の3つのポイントを抑えましょう。

  • 全従業員が理解できるように、専門用語を避けて平易な言葉で書くこと
  • 全体像を把握しやすくすること
  • マニュアルを定期的に見直すこと

ISO9001のマニュアルは、企業のQMSを適切に運用するための重要なツールです。
これは単なる認証のための書類ではなく、品質の継続的な改善に役立てるべきものです。

全社員が理解しやすく、現場の実態を反映した「使える」マニュアルを作成しましょう。

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