2025年10月15日

目次
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- 1.個人情報保護管理者とは
- (1)個人情報保護管理者の定義と設置が求められる背景
- (2)Pマークにおける役割と責任
- 2.個人情報保護管理者に求められる人物像
- (1)必要な知識・スキル
- (2)適任者を選ぶポイント
- (3)よくある誤解と注意点
- 3.個人情報保護管理者と監査責任者の違い
- (1)主な役割の違い
- (2)兼任の可否と実務上の注意点
- 4.個人情報保護管理者の選任方法
- (1)選任の流れと組織内での位置づけ
- (2)社内人材で対応する場合
- (3)コンサルタント活用の可否とメリット・デメリット
- (4)よくある失敗例・選任時の落とし穴
- 5.選任後に求められる具体的な業務
- (1)個人情報管理体制の整備・運用
- (2)社員教育・周知の実施
- (3)内部監査や点検活動
- (4)個人情報漏洩事故発生時の対応
- (5)定期的な見直しと改善
- 6.Pマーク審査でのチェックポイント
- (1)審査で確認される主な項目
- (2)審査で指摘されやすいポイント
- 7.まとめ
Pマーク(プライバシーマーク)の取得や維持を検討している企業にとって、「個人情報保護管理者」の選任は避けて通れない重要なステップです。しかし、「誰が適任なのか?」「具体的に何をすればいいのか?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、個人情報保護管理者の役割から具体的な業務内容、適任者の選び方までを詳しく解説します。本記事を読み終える頃には、自社に最適な人材を選任し、Pマークの運用をスムーズに進めるための道筋が明確になるはずです。
1.個人情報保護管理者とは

(1)個人情報保護管理者の定義と設置が求められる背景
個人情報保護管理者とは、Pマーク(プライバシーマーク)制度の基盤であるJIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)に基づき、事業者が個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を適切に運用するために設置が義務付けられた役職です。
この役職は、単に個人情報の取り扱いを監督するだけでなく、組織全体で個人情報を適切に保護するための中心的な役割を担い、Pマーク運用における実務上の司令塔といえます。
近年、個人情報の取り扱いに関する事故や漏洩が社会的な信頼失墜につながる事例が増加しており、企業が「個人情報を適切に管理する体制を整備しているか」がPマークの審査の大前提となっています。
そのため、第三者認証であるPマークの信頼性を担保するためにも、組織内に責任者を明確に設けることが求められています。
(2)Pマークにおける役割と責任
Pマークにおける個人情報保護管理者の主な役割は、PMS(個人情報保護マネジメントシステム)の確立・実施・維持・改善を行うことです。具体的には、以下の責任を負います。
- PMSの策定・運用
企業全体の個人情報保護に関する方針を決定し、それを具体的なルールや手順に落とし込み、従業員に周知徹底します。 - 従業員の監督と教育
個人情報を取り扱うすべての従業員が、定められたルールを遵守しているかを監督し、定期的な教育や研修を実施します。 - 法令遵守の確認
個人情報保護法や関連する法令、ガイドラインの変更点を常に把握し、PMSに反映させます。 - リスク管理
個人情報のリスク分析を行い、適切な対策を講じます。 - 内部監査の実施
PMSが適切に機能しているかを定期的にチェックし、改善点があれば是正措置を講じます。 - 事故対応の統括
万が一個人情報の漏えいが発生した場合、原因調査・報告・再発防止策を主導します。 - 監視と改善
定期的に運用状況を点検し、必要に応じて改善を主導します。
2.個人情報保護管理者に求められる人物像
(1)必要な知識・スキル
個人情報保護管理者に求められる知識とスキルは以下の通りです。
- Pマーク制度とJIS Q 15001の知識
Pマークの要求事項や個人情報保護に関する専門知識を理解していることが必須です。 - 法令知識
個人情報保護法や特定個人情報保護法、業界ごとのガイドライン(例:医療情報、金融情報など)への理解が求められます。 - 社内業務プロセスの把握
組織内の業務フローを理解し、個人情報保護の観点から適切に対応できる力が必要です。 - リスクマネジメント能力
個人情報に関するリスクを分析し、適切な対策を講じる能力が求められます。 - コミュニケーション能力
経営層、各部署の責任者、現場の従業員と円滑に連携し、PMSを組織全体に浸透させる力が重要です。 - 管理能力
PMSの運用計画を立て、進捗を管理し、問題発生時に迅速に対応する能力が必要です。 - 内部統制の理解
内部監査や運用の点検を通じて、PMSの適切な運用を維持するための基本的な理解が求められます。
これらの知識やスキルを活用し、法令や規格を実務に落とし込むことが、個人情報保護管理者には求められます。
(2)適任者を選ぶポイント
個人情報保護管理者を選任する際には、以下のポイントを考慮することが重要です。
- 役員または部門長クラス
PMS全体を統括し、組織全体を俯瞰できる立場にある人物が適任です。経営層に近い役員や複数部署を束ねる部門長が理想的です。 - 意思決定権を持つ人
個人情報保護に関する課題や改善策について、自ら意思決定できる権限を持つことが重要です。権限がないとPMSの運用が滞るリスクがあります。 - 社内のキーパーソン
社内で信頼され、各部署との連携をスムーズに行える人物を選びましょう。 - 経営層から信頼を得ている人物
経営層との連携がスムーズで、組織横断的に調整できる立場にあることが求められます。 - 全社的な視点を持つこと
部署に偏らず、全社的な視点でPMSを運用できる人物が適しています。 - 業務と並行して責任を果たせる余裕
日常業務と管理者としての責任を両立できる余裕があることが望ましいです。
多くの企業では「情報システム部門」「総務部門」「管理部門」などから選任されることが一般的ですが、最も重要なのは、実効性のある体制を構築できる立場かどうかです。
(3)よくある誤解と注意点
個人情報保護管理者の選任においては、以下のような誤解や注意点に留意する必要があります。
- 特定の部門に偏った選任のリスク
「情報システム部門」や「法務部門」の担当者が適任だと考えられがちですが、これに限定するのは誤りです。PMSを全社的に展開するためには、全社的な視点を持ち、各部署を横断的に調整できる人物が求められます。 - 肩書きだけの形骸化
「肩書きだけ置いておけばよい」という考え方は危険です。審査では、実際に管理者がPMSの運用に関与し、実務を担っているかが確認されます。 - 法律資格者が必須という誤解
弁護士などの法律資格者である必要はありません。必要な知識は研修や外部支援を活用して補うことが可能です。 - 情報システムの専門家でなければならないという誤解
情報システムの専門知識が必須ではなく、情報管理全般を監督できる能力があれば、部門に関係なく選任が可能です。
適任者を選ぶ際には、これらの誤解を避け、実効性のある体制を構築できる人物を選任しましょう。
3.個人情報保護管理者と監査責任者の違い
(1)主な役割の違い
個人情報保護管理者と個人情報保護監査責任者は、Pマークの運用においてそれぞれ異なる重要な役割を担っています。
- 個人情報保護管理者
- 個人情報保護管理者は、PMS(個人情報保護マネジメントシステム)の「確立、実施、維持、改善」を主導する役割を担い、組織全体の個人情報保護体制を構築・運用する「攻め」の立場です。日常的な運用を統括し、PMSをより良くするための施策を立案・実行します。
- 個人情報保護監査責任者
- 個人情報保護監査責任者は、確立されたPMSが適切に運用されているかを「監査」し、問題点を指摘する「守り」の立場です。管理者から独立した客観的な視点で、体制の適切性を点検・評価します。
このように、個人情報保護管理者が「実行」を担うのに対し、監査責任者はその「監査」を行うという役割分担が明確に定められています。
(2)兼任の可否と実務上の注意点
個人情報保護管理者と監査責任者の兼任は、Pマーク制度において禁止されています。これは、監査の客観性と独立性を確保するためです。
例えば、個人情報保護管理者が自ら策定したルールを監査責任者として評価する場合、客観的な指摘が難しくなります。そのため、必ず別の人物を選任する必要があります。特に小規模事業者では兼任を検討するケースもありますが、審査で指摘を受けるリスクが高いため避けるべきです。
4.個人情報保護管理者の選任方法
(1)選任の流れと組織内での位置づけ
個人情報保護管理者の選任においては、経営層が候補者を選定し、その役割と責任範囲を明確に定めることが重要です。選任の流れは以下の通りです。
① 経営層が管理者を任命
候補者を選定し、その役割と責任範囲を明確に定めます。
② 社内規程に位置づけを明記
個人情報保護管理者の役割や責任を文書化し、規程に反映します。
③ 任命書・組織図に反映
管理者としての任命を正式に記録し、組織図にも明記します。
④ 社員に周知
社内全体に管理者の役割と権限を周知し、「PMSを全社的に推進する責任者」として認識されるようにします。
このプロセスを形式的に済ませるのではなく、個人情報保護管理者がPMSの最高責任者である代表者の指示を受け、全社的にPMSを推進する「権限を持つ責任者」として社内で認識されることが大切です。
(2)社内人材で対応する場合
社内の役員や部門長クラスの中から選任します。この際、候補者が多忙である場合でも、役割の重要性を十分に説明し、業務をサポートする体制を整えることが重要です。
【メリット】
- 社内事情に精通しており、即応性が高い。
【デメリット】
- 本来業務との兼務による負担増や、専門知識の不足が課題となる場合があります。
(3)コンサルタント活用の可否とメリット・デメリット
個人情報保護管理者の役割を外部のコンサルタントに委託することはできませんが、「管理者をサポートする外部専門家」として活用することは可能です。
コンサルタントを活用することで、以下のようなメリットとデメリットがあります。
【メリット】
- 専門家の知見を活用し、効率的にPMSを構築・運用できる。
- 法令改正や審査のトレンドなど、最新情報を得られる。
- 文書作成や審査対応のノウハウを提供してもらえる。
【デメリット】
- 費用がかかる。
- 社内でのノウハウが蓄積されにくい。
社内人材の選任と外部支援の活用を適切に組み合わせることで、効率的かつ効果的にPMSを運用することが可能です。コンサルタントを活用する際は、これらのメリットとデメリットを考慮し、自社の状況に応じた適切なサポートを依頼しましょう。
(4)よくある失敗例・選任時の落とし穴
個人情報保護管理者の選任においては、以下のような失敗例や注意点が挙げられます。
- 名ばかり管理者の選任
形だけ役員や管理者を選任し、実務を担当者任せにするケースです。
この場合、審査で役割が形骸化していると指摘されるリスクがあります。 - 多忙な社員への丸投げ
日常業務で手一杯の社員に役割を任せると、PMSの運用が滞り、形骸化する可能性が高まります。 - IT部門だけに任せる
個人情報保護はITセキュリティだけでなく、組織全体に関わる問題です。
技術視点に偏ることで、全社的な運用が不十分になるリスクがあります。 - 兼任による責任の曖昧化
他の役職と兼任させることで、責任が曖昧になり、実効性が疑われる場合があります。
これらの失敗を防ぐためには、全社的な視点を持ち、実務を適切に遂行できる人物を選任することが大切です。
5.選任後に求められる具体的な業務
(1)個人情報管理体制の整備・運用
個人情報管理体制の整備・運用においては、以下の取り組みが求められます。
- 個人情報保護方針の策定
企業としての個人情報保護に対する基本的な姿勢を明確にします。 - 個人情報の特定
どのような個人情報を、どこで、どのように取り扱っているかを洗い出し、管理台帳を作成します。 - リスク分析と対策
漏洩や不正利用のリスクを特定し、適切な対策を講じます。 - 規程・手順書の整備と運用監督
個人情報保護に関する規程や手順書を整備し、運用状況を定期的に監督します。
これらのプロセスを通じて、組織全体で個人情報を適切に管理する体制を構築・維持することが大切です。
(2)社員教育・周知の実施
個人情報保護に関する意識を全社員に浸透させるため、以下の取り組みを行います。
- 定期的な研修
全社員を対象に、個人情報保護に関する研修を定期的に実施します。また、入社時研修やeラーニングを活用し、新入社員にも徹底します。 - 周知の徹底
社内規程やマニュアルをイントラネットに公開し、社員がいつでも確認できる環境を整備します。
(3)内部監査や点検活動
個人情報保護管理体制を適切に維持し、継続的に改善するため、以下の取り組みを行います。
- 監査計画の策定と実施
監査責任者と連携し、内部監査の計画を立てて実施します。 - 問題点の是正処置
監査で指摘された問題点について、改善策を検討し、実行します。 - 継続的な体制チェック
監査責任者と協力し、体制を定期的に点検し、運用状況を確認します。
(4)個人情報漏洩事故発生時の対応
個人情報漏洩事故が発生した際に迅速かつ適切に対応するため、以下の取り組みを行います。
①緊急時の対応手順の策定
万が一の事故発生時に備え、初動対応(報告、被害拡大防止、原因究明、再発防止策など)の手順を事前に定めておきます。
②関連当局への報告
事故の内容に応じて、個人情報保護委員会や業界団体などの関係機関に速やかに報告します。
③原因究明と再発防止策の実施
事故の原因を徹底的に調査し、再発防止策を策定・実行します。
(5)定期的な見直しと改善
個人情報保護マネジメントシステム(PMS)は、一度構築して終わりではなく、社会情勢や法令の改正、業務内容の変更に応じて定期的に見直し、改善を行うことが大切です。これにより、常に最新の状況に適応した体制や規程を維持し、個人情報保護の実効性を高めます。
6.Pマーク審査でのチェックポイント
(1)審査で確認される主な項目
Pマークの審査では、個人情報保護管理者について以下の点が厳しくチェックされます。
- 選任の妥当性
管理者が組織内で適切な役職や権限を持っているか。 - 役割と責任の明確化
管理者としての業務内容が明確に定められ、説明できるか。 - 任命書や組織図での位置づけ
管理者が正式に任命され、組織図に明記されているか。 - 活動実績の証拠
定期的な会議の議事録、従業員教育の記録、教育計画など、PMSの運用実績が確認できる資料があるか。
(2)審査で指摘されやすいポイント
Pマーク審査では、以下の点が指摘されやすいため注意が必要です。
- 役割の認識不足
選任された管理者が、自身の役割や責任を十分に理解していない場合。 - 文書の不備
PMSに関する規程や台帳が最新情報に更新されていない場合。 - 活動の形骸化
会議が形式的に行われ、具体的な議論や改善活動が不足している場合。 - 名ばかりの管理者
実態と異なり、管理者が業務に関与していないケース。 - 管理者と監査責任者の兼任
管理者と監査責任者が同一人物である場合、独立性が担保されず指摘される可能性があります。
7.まとめ
個人情報保護管理者は、Pマークの取得・維持において、組織全体の個人情報保護体制を統括する「司令塔」として重要な役割を担います。単なる形式的な役職ではなく、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)の実効性を担保し、組織全体の信頼性を高める中心的存在です。
選任にあたっては、「知識やスキル」「調整力」「組織内での権限」の3点を満たす人物を見極めることが重要です。また、選任後は教育・監査・事故対応などの業務をリードし、定期的な見直しや改善を通じて、PMSの運用を継続的に強化していくことが求められます。
本コラムで解説したポイントを参考に、自社にとって最適な個人情報保護管理者を選任し、Pマークの運用を成功に導いてください。
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