2025年11月5日

目次
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- 1.Pマークにおける内部監査とは
- (1)内部監査の目的と役割
- (2)規格上の位置づけ
- (3)適合性監査と運用監査の違い
- (4)内部監査を実施することで得られる具体的な効果
- 2.内部監査の準備と計画
- (1)監査計画の立て方
- (2)監査員の選定・育成と役割分担
- (3)監査対象部門と日程調整
- (4)チェックリスト作成のポイント
- 3.内部監査の実施ステップ
- (1)現場でのヒアリングと文書確認の進め方
- (2)指摘事項の記録と整理
- (3)監査報告書の作成と経営層への報告
- 4.内部監査で直面する課題と対処法
- (1)課題①:形骸化してしまう監査
- (2)課題②:監査員の知識不足・育成の難しさ
- (3)課題③:部門側の非協力的態度への対応
- 5.監査結果を活かす!是正処置と継続的改善
- (1)指摘事項から真の課題を見つけ出す方法(根本原因分析)
- (2)効果的な是正処置計画の立て方と進捗管理
- (3)次回監査につなげる改善サイクルを根付かせるには
- 6.まとめ
個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を運用する企業にとって、Pマーク(プライバシーマーク)の取得・維持は重要な経営課題です。Pマークの維持には、定期的な内部監査が不可欠ですが、「ただやればいい」と形骸化させてしまうと、その真価は発揮されません。
本コラムでは、Pマークの内部監査を成功に導くための具体的な方法を、準備から実施、そして結果の活用まで徹底的に解説します。本コラムを通じて、Pマークの内部監査の重要性を理解し、効果的な内部監査を実施するための第一歩を踏み出しましょう。
1.Pマークにおける内部監査とは

(1)内部監査の目的と役割
Pマークにおける内部監査は、単なる形式的な行事や点検ではなく、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)がJIS Q 15001の要求事項に適合し、効果的に運用されているかを定期的に検証する活動です。
その目的は、規格や自社規程への適合性を確認し、運用面でのギャップやリスク(漏洩、権限乱用、記録欠落など)を早期に発見・改善することにあります。また、内部監査を通じて、実際の運用が規程どおりに行われているかを検証し、継続的改善を促すための情報を経営層に提供する役割も果たします。
これにより、組織の個人情報保護体制を客観的に評価し、是正・予防措置を講じることで、より強固な仕組みを構築することが可能となります。
(2)規格上の位置づけ
Pマークの審査基準であるJIS Q 15001「個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」では、内部監査の定期的な実施が明確に求められています。
具体的には、4.2.5.3項において、組織は個人情報保護マネジメントシステムが規格の要求事項に適合し、効果的に運用・維持されているかを判断するため、あらかじめ定めた間隔で内部監査を行うことが規定されています。
内部監査は、マネジメントレビューや是正処置と連動し、認証維持の中核を担う重要なプロセスであり、その実施状況はPマークの維持・更新審査において厳しく確認されます。監査結果は経営層に報告され、改善方針の策定に反映されることで、継続的な運用改善につながります。
(3)適合性監査と運用監査の違い
内部監査においては、「適合性監査」と「運用監査」という2つの視点を持つことが重要です。
適合性監査は、規程や手順書などの文書がJIS Q 15001の要求事項に沿って整備されているかを確認するもので、制度面の整合性を担保します。
一方、運用監査は、これらの文書に基づいたルールが現場で実際に守られているかを記録や証拠をもとに検証するもので、実務面の実効性を確認します。
どちらか一方に偏ると、書類上は問題がなくても現場での運用に不備があるといったリスクを見逃す可能性があります。そのため、両者を組み合わせた監査を行うことで、制度と実務のギャップを埋め、より効果的な個人情報保護体制の維持・改善につながります。
以下の表は、適合性監査と運用監査の違いと、それぞれの目的や具体例を整理したものです。
監査の種類 | 内容 | 具体例 | 目的・重要性 |
適合性監査 | 規程・手順書・法令などの文書がJIS Q 15001の要求事項に適合しているかを確認 | ・「利用目的の明示」が | 文書整備の確認により、制度的な不備を防ぐ |
運用監査 | 規程が現場で実際に運用されているかを記録や証拠に基づいて確認 | ・書類が鍵付きキャビネットに保管されているか | 実務の実態を把握し、運用上のリスクを発見する |
両者の統合 | 適合性と運用の両面から監査を行うことで、制度と実務のギャップを埋める | 書類上は整っていても、現場で実施されないケースを防ぐ | 効果的な内部監査の実現と重大リスクの回避 |
(4)内部監査を実施することで得られる具体的な効果
内部監査は、組織の情報セキュリティや個人情報保護体制を強化するための重要な手段です。
適切に実施することで、以下のような多面的な効果が得られます。
- リスクの早期発見と予防
監査を通じて、ルールと現場の乖離や新たなリスク要因(例:未承認の外部委託、アクセス制御の緩み、USBメモリの不適切管理など)を早期に摘出し、情報漏洩などの事故を未然に防ぐことができます。
- 組織全体のセキュリティ意識向上
監査を受けることで、担当者は自部署の弱点を自覚し、個人情報保護の重要性を再認識します。これが教育や業務手順の改善への動機付けとなり、組織全体の意識向上につながります。
- 規格適合性の維持・向上
定期的な監査と是正活動により、JIS Q 15001などの規格要求事項に継続的に適合した状態を維持できます。これにより、Pマークの更新審査時の不適合を減らし、審査負荷の軽減にも寄与します。
【内部監査の効果一覧表】
効果分類 | 内容 | 具体例・補足 |
リスクの早期発見と予防 | 現場のルール逸脱や新たなリスクを早期に発見し、事故を未然に防止 | 顧客情報入りUSBの不適切管理、未承認委託の摘出など |
セキュリティ意識の向上 | 担当者が自部署の弱点を認識し、教育・改善の動機付けとなる | 個人情報保護法の重要性を再認識し、業務への意識が高まる |
規格適合性の維持・向上 | 継続的な是正で規格要求事項に適合し、審査時の不適合を減少 | JIS Q 15001への適合維持、Pマーク更新審査の円滑化 |
2.内部監査の準備と計画
内部監査の成否は、事前の準備で決まると言っても過言ではありません。
監査計画は、単なる日程表ではなく、監査の目的や範囲、基準、方法、リソースなどを体系的に整理したものです。計画段階でこれらを明確にすることで、監査の実効性が高まり、組織全体の個人情報保護体制の強化につながります。
(1)監査計画の立て方
- 監査目的・範囲
どの部門を、どのような目的で監査するかを明確にします。
例:「Pマーク運用状況の確認」や「リスク抽出」など。
- 監査対象部門の選定
理想は全部門の監査ですが、リソースに限りがある場合は、個人情報の取扱頻度やリスクの高い部門(人事、顧客対応、外部委託先管理など)を優先します。
- 監査日程の調整
対象部門の業務に支障が出ないよう、事前に調整し、少なくとも2週間前には通知します。これにより、必要な証拠資料の準備時間を確保できます。
- 監査員の選定
監査を実施するメンバー(監査リーダー含む)を決定し、役割分担を明確にします。
- 監査方法の明示
文書確認、現場ヒアリング、記録のサンプリングなど、複数の手法を組み合わせて実施します。
- 監査基準の設定
自社規程、Pマーク審査基準、関連法令などを基準とし、監査の客観性を担保します。
- 成果物の定義
監査報告書、指摘事項一覧、是正処置計画などを成果物として明記します。
【監査計画サマリ(テンプレート形式)】
項目 | 内容例 |
目的 | 年度内のPマーク運用確認とリスク抽出 |
監査範囲 | 個人情報の収集〜廃棄(人事・顧客情報・委託先管理を含む) |
監査基準 | 自社規程、Pマーク審査基準、関連法令 |
監査方法 | 文書確認+現場ヒアリング+記録サンプリング |
実施期間 | 〇月〜〇月 |
成果物 | 監査報告書、指摘事項一覧(是正処置計画含む) |
監査責任者 | 氏名(監査リーダー) |
事務局・連絡先 | 氏名・内線 |
【実務上のポイント】
- リスクベースで重点監査エリアを決定(過去のインシデントや個人情報量の多い部門など)
- 初回は年1〜2回の頻度で実施し、傾向を見て調整
- 各部門には早めに通知し、準備期間を確保
(2)監査員の選定・育成と役割分担
内部監査の質を左右するのが「監査員」の選定と育成です。適切な人材を選び、必要なスキルを身につけさせた上で、明確な役割分担を行うことで、監査の信頼性と効率性が大きく向上します。
【監査員の選定基準】
監査員は、監査対象部門と利害関係のない人物を選定するのが原則です。
例えば、営業部門を監査する場合、同じ部門の社員を監査員に選ばないようにします。選定にあたっては、以下の基準を満たすことが望まれます。
- 独立性:監査対象の業務に直接関与していないこと
- 基礎知識:個人情報保護に関する法令やPマーク要件の理解
- 実務スキル:質問力、客観的な証拠収集力、報告力、コミュニケーション力
【監査員の育成内容】
監査員には、専門知識だけでなく、実践的なスキルも求められます。以下のような研修や実務経験を通じて、監査力を高めます。
育成項目 | 内容例 |
制度理解 | Pマーク制度の基礎、審査基準の理解 |
監査手法 | インタビュー、記録サンプリング、現場ヒアリング |
証拠の見極め | 記録・ログ・署名・メールなどの客観的証拠の識別 |
不適合の評価 | 重大/軽微の判断基準、適切な指摘表現 |
是正処置支援・フォローアップ | 指摘後の対応支援、改善状況の確認方法 |
ロールプレイ | 実例を用いた模擬監査(現場ヒアリングの練習) |
【監査チームの役割分担】
役割 | 主な業務内容 |
監査リーダー | 監査計画の策定、監査報告書の取りまとめ、経営層への報告 |
監査員 | 現場ヒアリング、証拠収集、指摘事項の作成 |
事務局 | 日程調整、資料収集、議事録作成、監査記録の管理 |
(3)監査対象部門と日程調整
内部監査を円滑かつ効果的に実施するためには、監査対象部門の選定と日程調整が重要なステップです。監査が単なる形式的なチェックではなく、改善の機会であることを伝え、対象部門の理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
【対象部門の選定】
監査対象は、全社的に網羅することが理想ですが、リソースや時間に制約がある場合は、リスクの高い部門を優先的に選定します。以下は優先順位の一例です。
優先順位 | 部門例 | 主な監査対象業務 |
1 | 情報システム部門 | アクセス管理、システムログの管理 |
2 | 人事部門 | 採用・退職時の個人情報処理 |
3 | 営業・顧客対応部門 | 同意取得、苦情対応、顧客情報の管理 |
4 | 委託先管理部門 | 委託契約、委託先の個人情報取扱状況 |
【日程調整のポイント】
監査日程の調整は、対象部門の業務に支障をきたさないよう慎重に行う必要があります。以下の点に留意するとスムーズです。
- 業務ピークを避ける:繁忙期やイベント期間を避けることで、監査協力が得やすくなります
- 主要担当者の予定確認:出張や長期休暇などを事前に把握し、ヒアリング可能な日程を確保
- 証跡の事前リクエスト:ログ、契約書、記録などの必要書類を事前に準備してもらうよう通知
【事前通知と配布物】
監査の数週間前には、以下の内容を含む「監査通知書」を対象部門へ送付します。
また、監査が単なるチェックではなく、改善のための協働の場であることを明確に伝えることで、対象部門の前向きな協力を得やすくなります。
配布物 | 内容 |
監査通知書 | 監査目的、対象範囲、日程、担当監査員、必要書類リスト |
当日のタイムライン | ヒアリングや文書確認の時間割、担当者の役割分担など |
(4)チェックリスト作成のポイント
内部監査の質を高めるためには、詳細かつ実践的なチェックリストの作成が不可欠です。チェックリストは単なる確認項目ではなく、監査の精度と効率を左右する重要なツールです。以下の観点を踏まえて作成することで、より効果的な監査が可能になります。
【作成時の基本方針】
- 網羅性の確保
JIS Q 15001の要求事項、自社のPMS規程、過去の指摘事項などを幅広く盛り込み、抜け漏れのない構成にします。
- リスクベースの設計
頻度や影響度の高い業務・項目を優先的にチェック対象とし、実効性の高い監査を実現します。
- 具体性のある質問形式
「個人情報を適切に管理しているか?」のような抽象的な表現ではなく、「顧客情報が記載された書類は鍵付きキャビネットに保管されているか?」など、Yes/Noで答えられる具体的な問いにします。
- 実務的な問いかけ
単なる有無確認ではなく、「〜が直近3ヶ月以内に実施された証拠を提示してください」など、行動と証拠を結びつけた問いかけにすることで、実態把握が可能になります。
- 柔軟性の確保
チェックリストはあくまでガイドラインであり、現場の状況に応じて質問を追加・変更できるようにしておきます。
【チェックリスト構成例(※テンプレート)】
項目分類 | 質問例 | 証拠例 | 判定基準 | 備考 |
書類管理 | 顧客情報が記載された書類は鍵付きキャビネットに保管されているか? | 保管場所の写真、鍵管理記録 | 適合/観察事項 | 重大/軽微の区分あり |
委託先管理 | 委託契約書に個人情報保護条項が含まれているか? | 委託契約書の写し | 適合/不適合 | サンプリング対象:3件 |
教育実施 | 個人情報保護教育が直近3か月以内に実施されているか? | 教育記録、出席簿、資料 | 適合/観察事項/不適合 | 実施頻度も確認 |
アクセス管理 | システムのアクセスログは定期的に確認されているか? | ログ記録、確認履歴 | 適合/不適合 | 抽出対象:直近1か月分 |
このように、網羅性・具体性・柔軟性・証拠性・判定基準の5つの視点を押さえたチェックリストを作成することで、監査の信頼性と改善効果が格段に高まります。
3.内部監査の実施ステップ
(1)現場でのヒアリングと文書確認の進め方
現場での監査は、単なる形式的な確認ではなく、実態を把握し、改善につなげるためのプロセスです。
以下のステップと実務ポイントを押さえることで、監査の質と信頼性が大きく向上します。
【実施フローと進め方】
ステップ | 内容 |
オープニングミーティング | 監査の目的・範囲・日程を説明し、対象部門の責任者・担当者から協力を得る |
文書確認 | 管理台帳、手順書、契約書、教育記録、ログなどを目視で確認 |
ヒアリング | 担当者に業務内容や個人情報の取り扱いについて具体的に質問する |
現場確認 | 実際の業務現場で、個人情報の管理状況(PC画面ロック、シュレッダー利用など)を確認 |
裏取り・証拠収集 | スクリーンショット、ログ抜粋、署名入り記録などを保存。口頭説明だけで終わらせず、必ず裏付け資料を取得 |
クロージング | 初期の指摘事項(観察)と今後の対応手順を伝える |
【ヒアリングのコツ(質問例)】
- 「個人情報の取得時、どのように同意を得ていますか?手順を教えてください」
- 「退職者のアカウントはどのタイミングで停止していますか?直近の事例を示してください」
- 「外部委託先と個人情報のやり取りがある場合、どのように監督していますか?」
これらの質問は、実務の流れや習慣を具体的に把握するために有効です。単なる「〜はありますか?」ではなく、事例や証拠を求めることで、実態を明確にできます。
【証拠収集のポイント】
項目 | 内容 |
証拠の種類 | ログ、メール、申請フォーム、署名入り記録など |
証拠の条件 | 日付・担当者名が明記されていること |
サンプリング基準 | 「最新3件」「ランダム10件」など、事前に抽出ルールを定める |
裏付けの徹底 | 口頭説明だけで終わらせず、必ず文書や記録で裏付けを取る |
(2)指摘事項の記録と整理
内部監査において発見された不備や改善点は、すべて「指摘事項」として記録・整理する必要があります。記録の精度と客観性が、後の是正処置や改善活動の質を左右します。
以下のポイントを押さえて、信頼性の高い監査記録を作成しましょう。
【記録の基本原則】
- 客観的事実に基づく記載
指摘は「誰が、いつ、どこで、何を、どうしたか」という事実ベースで記録します。
例:「退職者Xのアカウント削除が退職日から7日後に実施された」
※「管理がずさん」などの主観的・感情的な表現は避けます。
- 証拠の明示と保存
スクリーンショット、ログ、署名入り記録、写真、メモなど、指摘の根拠となる証拠を必ず添付・保存します。口頭説明だけで終わらせず、裏付け資料を求めることが大切です。
- 事実と評価の分離
「何が起きたか(事実)」と「なぜ問題か(評価)」を明確に分けて記載します。
例:「手順では即時削除と定められているが、実際は7日後に削除されていた」
【指摘事項の記録テンプレート(必須項目)】
項目 | 内容例 |
指摘ID | A-2025-01 |
発生日/監査日 | 2025年7月10日 |
対象部門・プロセス | 人事部門/退職処理 |
該当規程・基準 | 自社手順書第5条「退職時のアカウント即時削除」 |
指摘内容 | 退職者Xのアカウント削除が退職日から7日後に実施されていた |
客観的証拠 | 削除ログ(退職日:2025/07/03、削除日:2025/07/10) |
分類 | 不適合(運用不一致) |
重大度 | 中 |
根本原因(暫定) | 担当者の手順理解不足 |
是正処置案 | 担当者への再教育、手順書の再周知(担当:人事課長、期日:2025/08/15) |
フォローアップ方法 | 再教育記録の確認、次回監査での再チェック |
このように、指摘事項は「事実+証拠+評価+対応策」のセットで整理することで、監査の透明性と改善効果が高まります。
(3)監査報告書の作成と経営層への報告
内部監査終了後は、速やかに監査報告書を作成し、経営層へ報告しましょう。報告書は、監査結果を体系的に整理し、組織全体で個人情報保護の現状と課題を共有するための重要なツールです。
【監査報告書の基本構成】
項目 | 内容例 |
1.表紙 | 監査名、監査期間、監査責任者 |
2.要約 | 主要な所見、リスクの高い項目、推奨アクション |
3.監査の目的・範囲・基準 | 監査の背景、対象部門、使用した基準(Pマーク、社内規程など) |
4. 実施方法 | サンプリング方法、面談人数、文書確認の手法など |
5. 所見一覧 | 指摘事項の詳細、分類(不適合/観察事項)、推奨される是正処置 |
6. 緊急対応項目 | 即時対応が必要なリスク(例:情報漏洩の可能性) |
7. 経営層への提言 | 投資、体制変更、人材配置などの具体的な改善提案 |
8. 添付資料 | 証拠(スクリーンショット、ログ等)、是正処置計画書 |
【経営層向け報告に含めるべき指標(KPI)】
指標項目 | 説明 |
指摘件数 | 重大/中/軽微の分類別件数 |
クローズ率 | 指摘事項の是正完了率(監査後一定期間内) |
平均是正完了日数 | 指摘から是正完了までの平均日数 |
再発件数 | 同一項目の繰り返し発生件数 |
高リスク分野の傾向 | 委託管理、アクセス制御、退職処理などのリスク集中領域の分析 |
【経営層への報告のコツ】
- 結論ファーストで伝える
「顕在化した最大のリスクは〜」と冒頭で要点を明示することで、意思決定を促しやすくなります。
- 具体的な改善提案を併記
投資や人的対応が必要な場合は、工数や費用の概算も添えて、実行可能性を高めます。
- 組織的な再認識の機会にする
監査結果を共有することで、経営層が個人情報保護の重要性を再認識し、全社的な改善活動につなげることができます。
このように、監査報告書は単なる記録ではなく、改善と意思決定を促す戦略的な資料です。
4.内部監査で直面する課題と対処法
内部監査は、組織の情報管理や個人情報保護体制を強化するための重要な活動ですが、実施にあたってはさまざまな課題が生じます。
以下では、よくある3つの課題とその対処法を具体的に整理します。
(1)課題①:形骸化してしまう監査
【主な原因】
- 書類照合だけの形式的なチェックで終わる
- 指摘事項が放置され、改善されない
- 経営層の関心が薄く、同じ指摘が繰り返される
【対処法】
対処策 | 内容 |
監査の目的再定義 | 「見つける」ではなく「改善する」ための活動として位置づける |
PDCAサイクルの導入 | 過去の指摘事項の改善状況を次回監査で確認し、継続的改善を促進 |
リスクベース監査 | 重要度の高いプロセスに注力し、監査の実効性を高める |
フォローアップの明確化 | 指摘ごとに担当者・期日・検証方法を設定し、経営層へ定期報告 |
監査手法の多様化 | 外部監査員の参加、クロスレビュー、抜取検査などを導入 |
成果の可視化 | KPI(例:クローズ率70%以上)を設定し、継続的に公表 |
(2)課題②:監査員の知識不足・育成の難しさ
【主な原因】
- 監査員に必要な知識(法令、Pマーク基準、監査手法など)が体系的に整理されていない
- 実務経験が浅く、ヒアリングや指摘作成に自信が持てない
- 教育機会が限られており、継続的なスキルアップが難しい
- チェックリストや評価基準が属人的で、標準化されていない
【対処法】
対処策 | 内容 |
定期研修の実施 | 法改正やPマーク基準の変更、実例検討などを含む研修を定期的に開催 |
OJT | ベテラン監査員と同行し、実務を通じてスキルを習得 |
模擬監査・ロールプレイ | 実践的なヒアリング力や指摘作成力を強化 |
チェックリスト・評価基準の整備化 | 標準化されたツールを活用し、監査品質の均一化を図る |
外部支援の活用 | コンサルタントによる監査員育成支援も有効 |
(3)課題③:部門側の非協力的態度への対応
【主な原因】
- 監査が「あら探し」や「評価の場」と誤解されている
- 過去の監査で不適切な指摘や対応があり、信頼関係が損なわれている
- 業務負荷が高く、監査対応に時間を割けない
- 監査の目的やメリットが十分に説明されていない
【対処法】
対処策 | 内容 |
目的とメリットの事前説明 | 「チェック」ではなく「改善につなげる活動」であることを強調 |
評価への影響がないことを明示 | 個人評価には関係しないことを伝え、安心して情報提供できる環境を整備 |
管理職の巻き込み | 管理職の同席や事前承認を得て、協力体制を構築 |
エビデンスベースの対応 | 感情論ではなく、客観的証拠に基づいて指摘を行う |
エスカレーションルートの整備 | 協力が得られない場合は管理層へ報告するルートを明確化 |
このように、課題の「原因」を明確にすることで、対処法の説得力が増し、社内での理解や改善活動も進めやすくなります。
5.監査結果を活かす!是正処置と継続的改善
(1)指摘事項から真の課題を見つけ出す方法(根本原因分析)
内部監査の真価は、単なる指摘に留まらず、その後の是正処置と継続的改善にあります。特に重要なのは、表面的な問題の背後にある「真の課題=根本原因」を見極めることです。これにより、再発防止と業務品質の向上が実現します。
根本原因を特定するための代表的な手法には以下があります。
- なぜなぜ分析(なぜを5回繰り返す)
問題の発生原因を「なぜ?」と繰り返し問い直すことで、表面化していない運用上の欠陥や教育体制の不備、仕組みの欠如などを明らかにします。
- フィッシュボーン(特性要因図)
人・方法・機器・材料・環境・管理の6つの観点から要因を整理し、複雑な問題の構造を可視化します。
- データ分析
指摘事項の傾向(部門別、プロセス別)を分析し、頻出項目を優先的に改善対象とすることで、効率的な対応が可能になります。
【具体例①:退職者アカウントの削除遅延】
事実:退職日からアカウント削除まで最大7日間の遅延が発生
なぜなぜ分析
- なぜ削除が遅れる? → 退職情報の連絡が手動で遅延
- なぜ手動で遅延? → 人事からITへの申請がメールのみ
- なぜメールのみ? → システム連携が未整備
- なぜ未整備? → 導入時の要件定義に含まれていなかった
- なぜ含まれていなかった? → プロセスリスクの評価が不十分
根本原因:人手依存のプロセス設計とリスク評価の不足
【具体例②:個人情報ファイルのパスワード未設定】
指摘:PCにパスワード付きの個人情報ファイルが保存されていた
なぜなぜ分析
- なぜ? → 担当者がパスワード付与を忘れた
- なぜ? → ファイル共有ルールが周知されていなかった
- なぜ? → 新入社員向けの説明が不十分
- なぜ? → 教育体制が確立されていなかった
- なぜ? → 責任者が教育計画を立てていなかった
根本原因:教育体制の不備
(2)効果的な是正処置計画の立て方と進捗管理
監査で明らかになった指摘事項に対しては、根本原因に基づいた是正処置計画(CAPA)を策定し、確実に実行・管理することが重要です。計画は「誰が・何を・いつまでに・どうやって」行うかを明確にし、進捗を定期的に確認・修正することで、継続的な改善につながります。
また、優先順位の設定や経営層への報告体制を整えることで、組織全体の改善活動として定着させることができます。
【是正処置計画の構成要素(CAPA書式)】
項目 | 内容例・説明 |
指摘ID | 監査報告書と紐づけ(例:2025-IT-001) |
根本原因の要約 | なぜなぜ分析や特性要因図による抽出結果(例:教育体制の不備) |
是正処置の分類 | 即時対応/中期対応/長期対策(例:手動対応→プロセス改定→システム改修) |
具体的なアクション | 自動連携設定、退職フロー改定、担当者教育など |
実施担当者 | 部門名+氏名(例:IT部・田中) |
目標期日 | T+〇日(例:退職日+3日以内にアカウント削除) |
検証方法 | 再監査、ログ確認、サンプルチェックなど |
完了判定基準 | 何をもって完了とするか(例:削除ログの確認完了) |
フォローアップ日 | 再検証のタイミング(例:1ヶ月後) |
【優先順位の付け方】
評価軸 | 内容例 |
重大度 × 発生確率 | 漏洩や事故につながる可能性の高さ(例:個人情報の管理不備) |
重大度 × 発生確率 | 業務停止、顧客信用損失、法的制裁など(例:法令違反による罰則) |
※これらを掛け合わせて、対応の優先順位を決定します。
【進捗管理報告】
管理項目 | 内容・運用方法 |
是正処置一覧 | 月次で更新し、最新状況を把握 |
経営層への報告 | 週次または隔週でダッシュボードに掲載 |
重要項目の管理 | 「期限管理」「担当明示」「検証方法」の3点を厳格に運用 |
(3)次回監査につなげる改善サイクルを根付かせるには
是正処置は完了した時点で終わりではなく、その有効性を次回の内部監査で確認することで、PDCAサイクルを継続的に回すことができます。これにより、個人情報保護体制をはじめとする組織全体の業務品質が着実に向上していきます。
改善サイクルを組織に定着させるためには、以下のような仕組みと運用が不可欠です。
【改善サイクルの構成要素】
項目 | 内容・運用方法 |
PDCAの明確な運用 | 内部監査 → 是正処置 → フォローアップ監査 → マネジメントレビュー → 次回監査計画へ反映 |
指摘履歴の管理 | 同一項目の再発防止のため、履歴を保管し再発率をKPIとして可視化 |
成功事例の社内共有 | 是正が成功した事例を社内で共有し、他部門の改善活動の参考とする |
継続的教育の実施 | 改善点に応じた部門別の教育を定期的に実施し、再発防止と意識向上を図る |
有効性の再確認 | 次回監査で是正処置の効果を検証し、必要に応じて追加対応を検討 |
このような改善サイクルを根付かせることで、監査は単なるチェック機能ではなく、組織の成長を促す推進力となります。継続的な教育と情報共有を通じて、全社的な品質文化の醸成にもつながります。
6.まとめ
本記事では「Pマークにおける内部監査」について解説しました。
要点を以下にまとめます。
まず、Pマークにおける内部監査の目的は、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)がJIS Q 15001の要求事項に適合し、効果的に運用されているかを検証することです。これにより、規程や運用上のギャップやリスクを早期に発見し、改善を促進します。また、内部監査は経営層に情報を提供し、組織全体の個人情報保護体制を強化する役割を果たします。
内部監査には「適合性監査」と「運用監査」の2つの視点があり、文書の整備状況を確認する適合性監査と、現場での実務が規程通りに行われているかを確認する運用監査を組み合わせることで、制度と実務のギャップを埋めることが重要です。
さらに、内部監査を適切に実施することで、リスクの早期発見や予防、組織全体のセキュリティ意識の向上、規格適合性の維持・向上といった多面的な効果が得られます。
内部監査を成功させるためには、事前準備が重要です。監査計画の策定、監査員の選定と育成、監査対象部門の選定、日程調整、チェックリストの作成などを通じて、監査の実効性を高めることが求められます。また、監査結果を基に是正処置を行い、次回監査につなげることで、継続的な改善サイクルを組織に根付かせることができます。
本記事を参考に、Pマーク内部監査の意義や実施方法を理解し、組織の個人情報保護体制の強化に役立てていただければ幸いです。
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認証パートナーは8,000社を超える企業様の認証を支援し、認証率100%を継続してきました。
経験豊富なコンサルタントの知見を活かし、お客様のISO/Pマーク認証・運用更新にかかる作業時間を約90%削減し、日常業務(本業)にしっかり専念することができるようサポートします。
▼認証パートナーが削減できること(一例)- マニュアルの作成・見直し:30時間→0.5時間
- 内部監査の計画・実施:20時間→2時間
- 審査資料の準備:20時間→0.5時間
認証取得したいけれど、何をすれば良いか分からない方も、まずはお気軽にご相談ください。
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8,000社以上の支援実績に裏付けされた、
当社サービスの概要を紹介しております。
資料の内容
- ・一目でわかる『費用』
- ・一目でわかる『取得スケジュール』
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Pマーク(プライバシーマーク)認証パートナー
サービスのご案内
認証パートナーの専門コンサルタントが御社の一員となって事務局業務を行います。
お客様の作業は審査機関との窓口役だけ。それ以外はすべてお任せください。
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Pマーク
個人情報保護マネジメントシステム
高い保護レベルの個人情報保護マネジメントシステムを確立し、運用していることを示します。
認証パートナーなら、個人情報漏えい防止の観点も踏まえたサポートを実現します。Pマークの認証ページへ -
ISO9001
品質マネジメントシステム
品質マネジメントシステムは一貫した製品・サービスを提供し、顧客満足を向上させるための規格です。
認証パートナーなら、負担が増える形だけのISOではなく、より現場の実態に沿ったISOを実現します。ISO9001の認証ページへ -
ISMS・ISO27001
情報セキュリティマネジメントシステム
情報セキュリティマネジメントシステムは企業・組織の情報を守る規格です(ISMSとISO27001は同義)。
認証パートナーなら、情報セキュリティリスクへの対応計画、緊急時の対応計画踏まえPDCAサイクル回せるような仕組み作りを実現します。ISMS/ISO27001の認証ページへ -
ISO14001
環境マネジメントシステム
環境マネジメントシステムは環境を保護し、変化する環境状態に対応するための組織の枠組みを示します。
認証パートナーなら、課題になりがちな環境法令の対応についても一緒にサポート致します。ISO14001の認証ページへ -
ISO27017など各種対応規格
ISO27017やISO22000など各種規格もお得に 新規取得や運用・更新ができます。ご気軽にお見積りください。
ISO27017など各種対応規格ページへ -
複数規格の同時取得
ISOやプライバシーマークを同時に認証取得すると費用や工数を抑えることができます。安心してご相談ください
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