1.なぜベトナムでISMSが必要なのか?
ベトナムでISMSが必要とされる理由はいくつかあります。
(1)データ保護とプライバシーの重要性
近年、ベトナム国内でもデジタル化が進んでいます。
企業データや個人のデータがオンライン上でやり取りされる機会が増えています。そのため、情報セキュリティと個人データ保護の二つの観点から、ISMSを取得することが望まれています。
(2)法的要件と規制
ベトナムには、個人情報保護法やサイバーセキュリティ関連の法律や規制が存在します。
これらの法的要件を遵守するためにも、組織はISMSを導入し、情報セキュリティを管理する必要があります。
(3)信頼と競争力の向上
ベトナムはオフショア開発拠点として海外から注目を集めている国です。
海外では当然のように情報セキュリティの要求があります。
ISMSを導入することで、顧客やビジネスパートナーに対して組織の情報セキュリティへの取り組みを示すことができます。
情報セキュリティへの高い取り組みは、顧客の信頼を得るだけでなく、競争力を向上させる要素にもなります。
2.ベトナムでISMSを取得するメリット・デメリット
次に、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得に伴うメリットとデメリットをご紹介いたします。
ISMSの取得に伴うメリットとデメリットは、大まかに以下の3つずつに分類できます。
(1)メリット
① 第三者へのアピールになる
ISMSの取得により、組織は特定のロゴマークを使用する権利を得ます。
このロゴマークをWebサイトや名刺などで使用することで、取引先や顧客からの信頼を高めることができます。
信頼を得ることは、企業の競争力を向上させる手助けとなり、環境に敏感な取引先からの支持を獲得し、営業活動や取引が円滑に進むでしょう。
②法令順守の強化になる
ISMSは関連する法令や規制に対する企業の遵守を促進します。
この基準を取得することにより、企業は環境法令の遵守に関するリスクを低減し、法的な問題を回避するための枠組みを整えることができます。
③情報セキュリティ意識の向上
ISMSの取得は、従業員や関係者のセキュリティ意識を高めます。
情報セキュリティマネジメントシステムの導入により、従業員は情報資産の保護やインシデント発生の防止方法について学び、日常業務に反映することができます。
(2)取得のデメリット
① マニュアルや記録の作成負担が増加する
ISMSの導入と維持には、書類やマニュアルの作成が欠かせません。
このため、ISMSに関連する業務が本業とは別に発生し、担当者に追加の負担をかけることがあります。
また、ISMS関連の書類は通常、3年間の保存が必要です。
書類を保存するためのスペースを確保する必要がありますが、幸いなことに、書類の保存は電子媒体でも行えるため、紙の文書での保管が必須というわけではありません。
② 費用がかかる
ISMSの取得には、審査機関への審査費用が発生します。
さらに、ISMSの認証は取得時だけでなく、毎年更新審査を受ける必要があり、毎年審査費用がかかります。
したがって、これらの審査費用が、ISMSを取得することで得られる新たなビジネス機会などとバランスが取れるかどうか、費用対効果を考慮する必要があります。
また、ISMSの導入には一定のコストがかかります。人材のトレーニング、技術の向上、セキュリティ対策の実施などが必要です。
これにより、組織内で予算やリソースの配分に関する課題が発生する可能性があります。
ISMSの導入に関するコストと利益をバランス良く検討し、組織のニーズに合わせた戦略的なアプローチを採ることが重要です。
③ 理想を求めすぎて、社員とのギャップが生まれてしまう
ISMSの取得は、組織文化の変化を求める場合があります。
情報セキュリティ意識の向上や従業員の参加、持続的な改善の推進など、情報セキュリティへの取り組みに対する組織全体の意識改革が必要です。
これには時間と努力が必要であり、組織の一部のメンバーにとっては抵抗感が生まれたり、変化への適応が必要な場合があります。
(3)ISMS取得企業事例
ベトナムにおいてISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を取得している企業の多くは、親会社からの指示や顧客からの要求に従って認証を取得しています。
さらに、実際にISMSを取得した企業の中には、日本の本社が使用している手順書をベトナム語に翻訳しただけで、ベトナム拠点の規模やニーズに合わない構造になってしまうことから、負担を感じている企業が多く存在しています。
現在のところ、ベトナムでISMSを取得した企業はまだ少数ですが、取得を検討している企業が増加しています。
将来的には、ベトナムでISMSを取得しようとする企業が増える傾向があると予想されます。
3.「日本のISMS」と「ベトナムのISMS」の違い
日本とベトナムでISMSの運用に違いはあるのでしょうか。
異なる国で認証を受ける場合、「ISMSの審査基準も変わるだろう」と考える方もいるでしょう。
しかし、その答えは「いいえ」です。ISOは国際基準であるため、日本でもベトナムでも「ISMSの審査基準」は変わりません。
ただし、強調する点として、「ISMSの審査を行う審査員の価値観」には違いが存在します。
ベトナムでのISO審査は現地の専門家が担当します。
ベトナムと日本は文化やビジネス観に違いがあるため、この価値観の違いが、審査の進行方法に違いをもたらし、一部の企業にストレスをもたらす可能性があります。
4.ベトナムでのISMS取得の流れ
ベトナムでISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得にかかる期間やステップについてご紹介しましょう。
ISMSの取得プロセスは以下の通りです。
(1)社内体制の確立
最初に行うべきことは、ISMSを推進する責任者(通常はISO担当者と呼ばれます)を選定することです。
この責任者はISMSの中心となり、全社での導入を指導します。
(2)取得計画の策定
ISMSの取得目標を明確にし、取得までの期限を設定します。
期限設定はISMSの効果的な取得に不可欠であり、スケジュールを守ることが成功の鍵です。
(3)外部サポートの検討
ISMSの取得には専門知識とリソースが必要です。
課題がある場合や外部のサポートが必要な場合、コンサルタントとの協力を検討しましょう。特に、日本語とベトナム語の両方に対応するコンサルタントを選ぶことが重要です。
(4)ISMSの構築
ISMSの構築には具体的なマニュアルや手順書の作成を含みます。
自社で作成する場合、約3か月の期間がかかりますが、外部のサポートを受ける場合は約1か月で考えてください。
(5)ISMSの運用
マニュアルや手順書が完成したら、これに基づいてISMSを運用します。
自社で運用する場合、約6か月を見込み、外部のサポートを利用する場合は約1か月から3か月を考えてください。
(6)審査機関への申請
ISMSの運用実績が十分に積まれたら、認証を受ける審査機関を選定し、申請を行います。
ベトナム国内には多くの審査機関が存在し、情報収集を事前に行うことをお勧めします。
(7)審査
審査プロセスは2回に分かれています。
1回目の審査では文書類や規程がISMSの要件に適合しているか確認されます。
2回目の審査では実際の運用が評価されます。審査員からの指摘がある場合、不適合事項の対応に約1か月かかることがあります。
(8)ISMS認証取得
1回目と2回目の審査が成功裏に終了し、不適合事項の対応が完了したら、審査機関からISMS認証が授与されます。
認証取得が完了すれば、ISMSを正式に運用することが可能となります。
5.ベトナムでのISMSセキュリティ実態
ベトナムでのISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)のセキュリティ実態について、以下のポイントで説明します。
(1) セキュリティ意識の向上
ベトナムにおける情報セキュリティに対する意識は着実に向上しています。
多くの企業が情報漏洩やサイバー攻撃からのリスクを認識し、ISMSの導入に積極的に取り組んでいます。
また、国内外のセキュリティ関連イベントやセミナーが開催され、情報セキュリティに関する知識と技術の共有が行われています。
(2)法制度の整備
ベトナム政府は情報セキュリティに関する法律や規制の整備に取り組んでおり、企業に対して情報セキュリティの遵守を義務付けています。
個人情報保護法やサイバーセキュリティ法などが制定され、違反企業には罰則が科されています。
これにより、企業は情報セキュリティに対する法的要件を遵守する必要があります。
(3)増加するサイバー攻撃
ベトナムではサイバー攻撃が増加しており、特に中小企業や政府機関を標的にした攻撃が増えています。
情報漏洩やサイバー攻撃に備えるため、多くの企業がISMSの導入を検討し、セキュリティ対策を強化しています。
ベトナムにおけるISMSのセキュリティ実態は、セキュリティ意識の向上、法制度の整備、サイバー攻撃への対応、外部サポートの需要、顧客要求への対応など、多くの要因に影響されています。
企業はこれらの要因を考慮し、情報セキュリティを強化するためにISMSを導入し、維持しています。
6.押さえておくべきセキュリティ体制3選
ISMSの取得を達成するために抑えておくべきセキュリティ体制を紹介します。
(1)従業員の監視を行う
ベトナムでは、情報流出や個人情報流出に関する関心が日本よりも薄いです。
自分が担当しているプロジェクトの相談を、悪気なく知人や家族に相談することがあります。
そのため、定期的に従業員のPCやスマホのセキュリティチェックを実施する必要があります。
セキュリティチェックを定期的に実施することで従業員のセキュリティ意識を向上させていきましょう。
(2)アクセス制限の確立
ベトナムで多いインシデント事故は、従業員が社内の情報を抜き取ってしまうことです。
企業情報の機密性を保つために、適切なアクセス制御を実施することが大事です。
必要な人々だけが必要な情報やシステムにアクセスできるようにし、不正なアクセスを防止します。
そうすることで内部犯行のリスクは大きく軽減できます。
(3)インシデント対応の計画
セキュリティインシデントが発生した場合の対応計画が必要です。
ベトナムでは、自分に都合の悪い事実は隠そうとすることがあります。
インシデントが発生・発見された場合の適切な報告手順や対応措置を定め、計画に従い迅速かつ効果的な対応を行えるように体制を作る必要があります。
7.ベトナムでのISO取得費用
ベトナムでのISMS取得にかかる費用についてご紹介いたします。
(1)審査費用の相場
ISMSの審査費用は、審査を受ける企業の規模によって異なります。また、依頼する審査機関によっても料金が変動します。以下は、大まかな目安となります。
– 1名~20名の企業: 約15万円相当(26,450,000ベトナムドン)
– 20名~59名の企業: 約18万円相当(29,900,000ベトナムドン)
– 60名~149名の企業: 約20万円相当(33,350,000ベトナムドン)
(2)その他の必要費用
ISMSの構築には専門知識が必要であり、多くの企業はコンサルタントのサポートを利用しています。コンサルタントのサポート費用は、コンサルティング会社によって異なり、以下は一般的な費用の目安です。
– サポート費用: 30万円から100万円の間
ISMSの導入には費用がかかりますが、審査費用やコンサルタントのサポート費用など、投資に見合った価値があると考える企業が多くあります。
情報セキュリティの強化と、信頼性の向上を実現するために、これらの費用は重要な投資と言えるでしょう。
8.まとめ
ベトナムでのISMS取得に関するメリット・デメリット、スケジュール、運用に関する注意点について詳しく説明しました。
ベトナムに拠点を持つ企業がISMS認証を検討されている場合、この情報が参考になれば幸いです。
もしISMSに関する疑問や質問がありましたら、どうぞお気軽にご相談いただければと思います。お手伝いできることがあればお知らせください。
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